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五木寛之氏の警告「悲惨な戦争の記憶こそ『相続』しないといけない」

伝えきれない話がまだまだある
第二波の脅威がくすぶる新型コロナウィルス。未曽有の時代に、私たちはどう生きればよいのか。『大河の一滴』がベストセラーになるなど、国民的作家の発言にいま注目が集まっている。そんななか上梓された新刊『こころの相続』では、「相続とはお金や土地ではない」とまったく新しい考えを提示する。歴史から学ぶことを忘れたすべての日本人に、いま作家がどうしても伝えたいメッセージとは?

風化する戦争体験

私が「こころの相続」の大きなテーマとして、何としても伝えなくてはと思っているのが「記憶の相続」、なかでも戦争の記憶です。

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戦争の話など、聞き飽きたと言われるかもしれません。じつはその通り、聞き飽きるような戦争の話、風化しても仕方のない戦争の話しか伝わっていないのです。

私の記憶にある戦争は、そんなものではありません。戦争が終わってすでに七十五年を過ぎようとしています。私たち世代にとっては生々しい記憶が残る戦争ですが、戦争を知らない世代が多数を占めるようになった現在、その記憶は薄れつつあります。

そんな中で、「戦争で北方領土を取り返すことに賛成ですか、反対ですか」などと、元島民の方に尋ねた国会議員が話題になりました。こうした発言をするということは、戦争の悲惨さが相続されていない何よりの証しなのではないか。戦争に対する恐怖とか、戦後、私たちが感じた戦争への反発などが薄れている気がしてなりません。