チョコの甘さは形で決まる? 視覚を操る「近未来の調理法」

わたしたちは色と形を味わっている
大嶋 絵理奈 プロフィール

赤く着色した白ワインは赤ワインの香りがする?

色を見て感じる味へのイメージは、生まれつきのものだけではなく、経験を通じても形成されていく。

たとえば、ワインの場合は大まかに、赤ワイン全般は濃厚で重たいイメージ、白ワイン全般はスッキリとしているようなイメージがあるのではないだろうか。ワインの種類は豊富とはいえ、ワインを飲む経験を通じて、それぞれの人の中に、赤ワインや白ワインに対する大まかなイメージが形成されているのである。ワインを味わうときには、色から想起されるイメージも含めて、味わっているのだ。

こうしたイメージは、香りの感じ方に大きく影響する。2001年にフランス・ボルドー大学で行われた実験では、白ワインを赤色に着色し、見た目が赤ワインであるかのように見せかけたワインの香りを実験参加者に嗅がせ、香りの感想を記述させた。

ワインの香りの感じ方も色によって変わってしまう photo by Tetra Images/gettyimages

その結果、「チョコレート」「プルーン」など、赤ワインに用いられる言葉を使って香りの特徴が述べられたのである。

つまり、人が感じるワインの香りは、嗅覚への刺激だけではなく、視覚の刺激によっても左右されてしまうことが明らかになったのだ。見た目が赤ワインに見えるというだけで、香りの認識まで歪められてしまったのである。

このように、人が「何の香りであるか」を識別するときには、嗅覚への刺激だけでなく、見た目などの別の刺激も手かがりに判断しているのだ。このことは、食べ物を味わうときの体験にも大きく影響する。

 

形が変わると味も変わる!? その理由に迫る

さらに、食べ物の色だけでなく、形によっても味が変わるという報告もあるから驚きだ。

こんな話がある。2013年にイギリスの菓子メーカーであるキャドバリーが、あるチョコレート製品を改良し、ただの四角形から、角が丸みを帯びた四角形に変えた。すると、製法や味は変えてないにもかかわらず、甘さが増したと感じる消費者が増え、苦情が殺到したという。

なぜ形状が変わるだけで、味の感じ方まで変わってしまったのだろうか? その理由は2つ考えられる。

1つは、形状が変化することで、風味物質の口の中での広がり方や、唾液への溶け具合が変わるからだ。特にチョコレートは、製造条件のこまかな違いが味に大きく影響する食べ物だ。

たとえば、チョコレートを作るときには、チョコレートを滑らかにするために、温度を上げたり下げたりする「テンパリング」という作業を行う。チョコレートをミクロな視点で見ると、6つの構造があることが知られている。このうち「5型」のときに、もっとも口溶けが良くなる。テンパリングは、5型のチョコレートを作るための作業なのだ。

チョコレートのミクロの構造

同じ5型の結晶になったものでも、チョコレートの形状によって口溶けが変わる。2013年にスイスの菓子メーカーであるネスレが行った研究では、同じ味のダークチョコレートの形を長方形、三角形、台形、卵形、楕円形など10種類に変化させたところ、滑らかさや口溶け、カカオの強さの感じ方が変わることが示された。

このように、チョコレートのミクロな構造や製品の形状は、味の感じ方を変化させるのである。