主治医から手術の成功を知らされました。

同時に、摘出した腫瘍を見せていただいて、一つのヤマを乗り越えたことを確認しました。ですが、頭の中ではその瞬間から次にやるべきことで一杯になっていました。

全身麻酔時に装着する人口呼吸器を外した後に「声」が出るかの確認でした。

2019年10月に自身がALSに罹患したことを公表した声優の津久井教生さん。「ニャンちゅう」をはじめとした声優としてのみならず、舞台にも立ち、精力的に活動していました。しかし2019年の3月に突然転び、歩行が困難になったのです。医師と一致団結し、半年の検査を経て病名が判明したのが9月のことでしたが、病名の判明の直前、腹部に大きな腫瘍が見つかりました。しかもその腫瘍を摘出しなければ、病名が判明しても治療をすることが難しいと言われたのです。

手術とは筋肉を断裂させることを意味します。声優として活動できるような声が出なくなるリスクもあります。妻や仕事仲間の応援やアドバイスを受け、それでも何より治療のできる体になることが大切と、摘出手術を受けることになりました。それから「声」は元に戻ったのでしょうか。津久井さん連載「ALSと生きる」7回目の今回は、腫瘍摘出手術後のことを伝えてもらいます。
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2020年のニャンちゅうチームのみなさん。写真左から比嘉久美子さん、津久井さん、鎮西寿々歌さん 写真提供/津久井教生

手術後最初にやったこと

さて、手術後、声は出るのでしょうか。

担当医の先生に話を伺ったとき、確かに返事の「はい」と、お礼の「ありがとうございました」を無意識で口にしました。その時に「あっ、声が出てる」とは思ったのですが、会話上の反射の言葉であってコントロールした自覚意識の音声ではありませんでした。無事に腫瘍摘出手術が済んだことは嬉しかったのですが、すぐにでも「声」の確認をしたいと思いました。

その為に手術前に決めていたことがありました。事前の説明で手術後麻酔が切れると強い痛みに襲われる可能性もあると聞いていたので、まだ麻酔が効いているうちに「声」に関しては試せることは試しておきたいという事でした。術後の痛みが伴ってしまうと、意識下での確認が出来ないと思ったからです。麻酔の影響があるかとも思ったのですが、私はすぐにでも「音声の無事」を確認したかったのです。

そう思って体に指令をだそうとすると、色々な事に気がつきました。なにより困ったのが「お腹に力が入らない」という事です。そりゃそうです、予定よりも10cmオーバーの切り傷がお腹を縦断しているのです。腹斜筋が連動していないのに、いつも通りの感覚があるはずがないのです。この状況ですと、脱力したまま声帯を震わせるしかないようです。

はたして声は出るのか?……というよりは、「この状態で声が出るか確認して、あわよくば出るようにしてしまおう」という感覚で実践することにしました。