先述の統計や友人たちの話を見聞きする限り、現代のフランスのカトリック教徒の大多数には何らかの信仰心のようなものがあっても「宗教心」はないような気がする。もはやカトリック教会の宗教的権威は無きに等しく、日本人が神社やお寺に行ってなぜかホッとするように、今では精神的・文化的な存在になっているのかもしれない。

だが少数派とはいえ、教会自体を信仰と捉えている者もいる。『グレース・オブ・ゴッド』に登場する実在の被害者、アレクサンドル(メルヴィル・プポー)は、信心深いカトリック教徒であるにもかかわらず、自分の人生、そして信仰をも教会に奪われてしまったのだ。

カトリック司祭の多発する性暴力は独身主義、神学校での性教育の欠如、秘密主義や官僚主義の体制、罪人を赦すという宗教観、数百年も培ってきた権力などが原因だと考えられているが、カトリック教会は未だにその根本的な原因を突き止めていないし、抜本的な改革を行っていない。

フランソワ・オゾン監督によると、本作の公開時には教会や信者からの反発が予想されたが、公開後は作品への批判はなかったそうだ。それどころか、神父の教育のためにこの映画を教材として使う動きが教会内であるという。

この映画を観たある司祭はオゾン監督にこう語った。

この映画はもしかすると教会にとってはチャンスかもしれない。教会が本作を受け入れられれば、ようやく教会内部で起きた事件の責任を負い、その撲滅のための最初で最後の闘いを始められるかもしれない」

これまでスタイリッシュな作風で知られたオゾン監督が驚くほど実直に作ったこの作品は、伝統と慣習が不正義を生み出したときに、私たち一人ひとりがどう行動すべきなのかを問いかける。コロナで今までの常識や生き方が改めて見直されるこのときに、ぜひ観てほしい1本だ。

【参考】
※1…『グレース・オブ・ゴッド 告発の時』プレス資料 - 映画ジャーナリスト 林瑞絵
※2…FRENCH CLERICS’ IMMUNITY TO THE LAW - Association of Free Thought
※3…Ex-Priest in France Is Convicted of Abusing Dozens of Scouts – The New York Times
※4…Child sex abuse: How long do the statutes of limitations run in the EU? - DW
※5…逃げ得を許さず!埼玉の強姦事件で時効寸前に検挙 アメリカだとDNA型だけで「名無しの権兵衛」の起訴も – yahoo個人前田恒彦
※6…聖職者384人が解任・辞職、児童への性的虐待で バチカン
※7…国連、カトリック教会の「性的虐待問題」を非難 フランシスコ法王で教会は生まれ変われるか - HUFFPOST
※8…Pope Francis Abolishes Secrecy Policy in Sexual Abuse Cases – The New York Times
※9…Almost 1,700 priests and clergy accused of sex abuse are unsupervised – NBC News
※10…The Changing World Religion Map: Sacred Places, Identities, Practices and Politics – Springer社

グレース・オブ・ゴッド 告発の時』は7月17日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国公開
配給:キノフィルムズ/東京テアトル
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