ホーキング博士最後の弟子が紐解く「人類の時間発見」

日常にある最大の”謎”への旅が始まる
高水 裕一 プロフィール

「7曜日」の起源

暦の話のついでに、「曜日」がどう決まったかをお話ししましょう。

1週間が7日というのは、もともとは天空の7天体、すなわち太陽、月、水星、金星、火星、木星、土星から来ています。そして曜日については、エジプトにおいて、「1日の24時間に、7つの天体を順番に割り振っていくということですが、これは図を見ていただいたほうがわかりやすいでしょうね(下図)。

【図】シュメール人による曜日の決め方
  シュメール人による曜日の決め方。1日の最初の1時間を支配する星がその日の曜日となった。拡大画像表示はこちら

天体の順番は、地球から遠いと思われるほうから並べられ、土、木、火、太陽、金、水、月とされました。これが基本的な天体の並びであり、これを順番に、24時間に当てはめていくのです。1日目の最初の1時間は、土曜日となりますね。

24÷7=3で、余りが3ですから、1日24時間には、7つの天体がすべて3回ずつ割り振られたあと、土、木、火の3つの天体のみ、もう1回ずつ割り振られます。すると、次の2日目の最初の1時間は、火の次の太陽、すなわち日曜日となります。次の3日目の最初の1時間は、太陽から右に3つ進んで月……という具合に曜日が決まっていくわけです。

こうして、今日使われているカレンダーの1週間の曜日の順序ができあがったのです。

しかし、もともとは土曜日から1週間が始まっていたのが、なぜ現在は変わってしまったのかはよくわかっていません。ちなみに日本では週の初めは日曜と思っている人が多いようですが、これも決まっているわけではなく、たとえばフランスのカレンダーは月曜から始まっていますし、イスラム圏ではいまも土曜日が週の最初とされています。

「時間とは何か」を問いはじめた人類

さて、それまでは「時間」というものを、天体の運動を見ることで「暦」として認識するだけだった人類が、「時間とはいったい何か?」を初めて問いはじめたのは、いまから2500年ほど前のことだったと思われます。

紀元前4世紀に、偉大な哲学者にして科学者でもあったアリストテレスが、著書『自然学』において、時間について次のように述べました。

時間とは、運動の前後における数である

つまり、運動の変化の尺度として、時間をとらえたのです。時間にはなんらかの実体があるわけではなく、物体などの運動によって初めて存在が認められる、いわば運動のパラメーターのようなものであると理解したのです。

このアリストテレスの考え方では、運動が起こらなければ時間は存在しないことになるので、仮にすべての物体が真空中で静止しつづけているならば、時間は存在しないことになります。しかし現在では、物質はすべて原子や素粒子からできているため、たえず熱運動というものをしていることがわかっています。その意味で、完全に静止している物体はありません。

「アキレスと亀」に秘められた奥の深い問題

アリストテレスの現れる100年ほど前には、ギリシャのゼノンという哲学者がすでに、運動と時間の関係について、次のような喩えばなしを用いて注目すべき考察をしていました。ゼノンは、こう言ったのです。

足が速いアキレスと、とてつもなく歩みが遅い亀が、かけっこをすることになった。ハンディとして、アキレスは亀よりも100mほど後ろからスタートすることになったが、両者の実力差からすれば、その程度のハンディはないにひとしいものだった。

ところが、アキレスはいつまでもたっても亀を追い越せない! とゼノンは主張したのです。その理由は、こういうものでした。

アキレスがある時間だけ前に進んだら、同じ時間に亀も、速度は遅いものの必ず前進はする。決してゼロではない。アキレスが、亀がいた地点に着いたとき、亀はわずかでもその先に進んでいて、そこにはいない。たとえほんの一瞬でも、アキレスが進めば亀も必ず進む。だから2人の距離は縮まりこそすれど、いつまでたっても決してゼロにはならない。したがって、アキレスは永遠に亀を追い越すことはできない(下図)。

【図】「アキレスと亀」のパラドックス
  「アキレスと亀」のパラドックス。アキレスが亀のいた位置に来ると、亀は必ず前に進んでいるので、永遠にアキレスは追いつけない!?

これが有名な「アキレスと亀」のパラドックスです。そしてゼノンは、アキレスを矢、亀を的と考えれば、的に射られた矢も決して的に当たらないと主張したのです。

このパラドックスはきわめて有名ですので、ご存じの方も多いと思います。実際にはアキレスは亀に追いつくのですからゼノンの論理はどこかが間違っているわけですが、みなさんならどう反論するでしょうか。いざ考えてみると、意外に難しいと思いませんか? じつはこの問題、相当に奥が深いのです。

ヒントを言うと、 となるのは「時間というものは無限に刻むことができるか?」という問いです。つまり、時間は無限の「点」からできているのかどうかが論点になるのです。その答えがYESかNOかによって、ゼノンを論破できるか否かが分かれます。では、どちらの答えだったら論破できるでしょうか?

もちろん、ゼノンも本気でアキレスが亀を追い越せないと思っていたわけではなく、当時の知識人たちに論争を仕掛けるつもりだったのですが、「時間は運動のパラメーター」というアリストテレスの考えに、鋭い問いかけをしているようにも思われます。しかし、アリストテレスはこのパラドックスについても『自然学』の中で言及し、みごとに論破しているのは、さすがとしか言いようがありません。

この問題は「無限とは何か」「時間とは何か」というきわめて深遠なテーマにもつながっていきますので、いまはこのへんにしておき、いずれ種明かしをさせていただこうかと考えています。みなさんもどうすればゼノンを論破できるか、少し考えてみてください。

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