プロフェッショナルの芸術家とは

ーーもうひとつ、ぜひ聞いておきたいことがあった。今回、各地の自治体がコロナ禍によって苦境に陥った芸術家を支援する施策を行った。とりわけ東京都が打ち出した「アーティスト支援」(都内で活動する音楽家や俳優、美術家らを対象にした10万円の補助金)に対しては、都が想定した4000人の4倍となる1万6000人の応募が殺到し、申し込みを初日で締め切るという事態も起こっている。草刈さんにとって、プロフェッショナルの芸術家、とはどんな人達を指すのだろうか。

-AD-

プロフェッショナルのバレリーナって何だろう、ということは、私が若い頃からずっと考えてきたことです。私は16〜17歳からCMに使って貰えたりする機会もあり、また親が私の活動のために惜しみなく援助してくれたので、本当に環境的には恵まれていました。それゆえに日本独特の感覚である「出る杭は打たれる」ということも嫌というほど体験しています。それは、私の個性が強いことも原因だったのかもしれませんが。

日本って、誰かを「特別な存在にする」ことを許さない社会なんだと思います。素晴らしい才能が出てきても、それを見いだしてくれる人、才能と文化を尊重して守り育てる環境、国全体でそういうことを守っていくシステムはいまだに確立されていないと思います。これは、何十年もの間、多くの人が議論してきたことなのですが、芸術を取り巻く環境において問題になる核の部分は全く変わっていないのではないでしょうか

撮影/森清

私は、バレエをはじめとする劇場芸術の環境のことしかわかりませんが、ヨーロッパの国々には芸術活動の質やアーティストを守っていくためのシステムがあるのです。例えば、パリオペラ座の団員は国家公務員と同じ扱いだったり、ヨーロッパでは長年劇場に雇われてきたダンサー、歌手、オーケストラの演奏者などは引退後も年金をもらえるような制度があったり。

先進国の殆どにバレエ、オペラ、演劇、映画、絵画、美術など、あらゆる分野の芸術家を養成する機関(学校)がありますし、その芸術の質を守っていく制度があるはずです。ハリウッドにしたって、労働組合がありますが、それは映画製作に関わる全ての分野の人々の権利を守っていく組合でもあるわけで。

芸術家を守ったり、レベルを維持するためのシステムというのは、芸術家として認められるかどうかをふるいにかけるシステムでもあると思います。各業界の共通認識になるような基準が設けられていれば良いのですが、どうも日本ではそういうことが難しい。

例えばスポーツであれば、国際大会やオリンピックというイベントがありますので、国際的な基準に従い、各競技の協会が指導団体や競技者をまとめて一つの形になることが可能なのだと思いますが、芸術分野では同じようにはいかないのだと思います。今回の補助金の対象者を決めるにしても、システムがないからこそ、想定の何倍かの人数の応募ということに繋がっているのではないでしょうか。