『ルポ 百田尚樹現象』を上梓した石戸諭さん

なぜリベラルは負け続け、いつまでも現実を変えられないのか?

「百田尚樹現象」から見えてくること

平成期でもっとも売れた作家の一人である百田尚樹。2010年代を象徴する人物を「現象」として捉えた先に、見えてきた現実とは――。話題書『ルポ 百田尚樹現象 愛国ポピュリズムの現在地』著者でノンフィクションライターの石戸諭さんに話を聞いた。

(取材・文:佐藤慶一、写真:西田香織)

「見えないものを見えるようにする」

――『ルポ 百田尚樹現象』、とても面白く読みました。でも、左派、リベラル派の方々がこの本を手に取るかどうか、勝手に心配しています(笑)

これを買うかどうかが、分断の壁をひとつ越えるかどうか、問われていると思って書きました。リベラルな人たちが百田さんや右派に抱く嫌悪感もわかりますが、問いを閉ざしてはいけないと思っています。それでは見えてくるものも見えてこない。この本ではノンフィクションの王道と僕が思うアプローチで、これまでなかなか理解できなかった現実を明らかにすることに挑みました。

百田さんには多くの批判もある一方で、著書は累計2000万部に到達している。これは一体なぜなのか。例えば、関連書を含めると100万部のベストセラーとなった『日本国紀』には、内容が間違っているという数多くの指摘があった。間違っていることは事実である。でも、爆発的に売れた。また、デマが売れるというなら、他の本が売れていてもいいはず。それなのに、なぜ百田さんなのか。2010年代を象徴する人物を現象として書きました。

平成期でもっとも売れた作家の一人で名実ともにエンタメ作家の頂点を極めた人物が、右派的なイデオロギーを有していること。それを包み隠さずに出していて、安倍晋三首相に最も近い作家とされていること。

その現実を直視せずには問題が見えてこないと思います。ただ間違っていると言うだけなら、それだけで正しいポジションを取れるし、勝った気にもなれます。でも、何が起きているのか、その現象を捉えることはできません。見えないものに蓋をするのではなく、見えないものを見えるようにするのが僕の仕事です。僕自身はリベラル的価値観を有していると強く思います。そのスタンスから右派に接近することで、見えてくるものもあると思いました。

 

――百田さんを読み解く一つのキーワードに「反権威主義」があります。

百田さんは対抗言説を作ることに注力しているように見えますが、これは考えてみればおかしな話です。安倍さんと近かったら圧倒的に体制側です。体制側かつ政治的に優位な立場にいるのに対抗言説を作り出すのは、今の右派論壇が抱えている強烈な少数派意識の現れです。

――だから、仮想敵を作ったり……。

そう。朝日新聞を筆頭にリベラルメディアを仮想敵とみなして、体制側なのに攻める側に回る。少し歴史を遡れば、右派、保守派は左派の攻撃を受ける側でした。なぜ本来守るほうの体制側が、攻めるようになったのか、攻守のスイッチが切り替わったのはいつなのか。そのきっかけが1996年に結成され、平成右派論壇の源流となった「新しい歴史教科書をつくる会(以下、つくる会)」です。この本では、藤岡信勝さん、小林よしのりさん、西尾幹二さんらにも取材をしました。