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中国の行き過ぎた「戦狼外交」が“眠れる巨象”をマジ切れさせた

インドの反中感情は燃え立つ一方

45年ぶりに死者も

いまから約1ヵ月前の6月15日に、標高約4200mのヒマラヤ山脈の中印国境沿いのラダック(Ladakh)地方ガルワン(Galwan)渓谷で、中印両軍による戦闘が起こった。

インド側の発表や報道によれば、中国側が計画的に急襲を仕掛け、インド側の死者は20人、中国側は約40人に上ったという。中印の国境地帯の衝突で死者が出たのは、45年ぶりのことだった。

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7月に入ってようやく、中印両軍が係争地から撤退したが、インドの反中感情は、燃え立つ一方である。中国の「戦狼(せんろう)外交」(強硬外交)は、カナダやオーストラリアに続き、またしても地域の大国を敵に回してしまった。

先週末に、ナレンドラ・モディ首相とも親交がある著名な在日インド人投資家のサンジーヴ・スィンハ氏とお会いした。彼は「インドの発展にとって中国は不可欠」としながらも、懸念を示した。

「インド人は歴史的に反中感情を持っていますが、今回のラダックでの一件で、完全に火が付いた格好です。インド政府は、国境地帯の2km以内で銃や爆発物の携帯を禁止する国境交戦規則を中国と結んでいましたが、今回の衝突で一方的に破棄しました。『今後は現場の指揮官が裁量権を持って対応して構わない』としたのです。

モディ首相も7月3日、ラダックを電撃訪問し、『歴史は拡張主義勢力の敗北や後退を目撃しており、全世界が不正行為に反対している』と演説。暗に中国を批判しました。モディ首相としても、新型コロナウイルスの蔓延やイナゴ被害などが深刻な中、中国と手を組んで国内経済をよくしたいという気持ちはあります。しかしいまのインドの国内事情は、とてもそのような雰囲気ではないのです」

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スィンハ氏の言わんとするところは、私にも理解できる。これまで中国は、「14億人の中国経済」という「打ち出の小槌」でもって、アメリカを除く世界を、何となく黙らせることができた。それが具現化したものが、習近平政権が進める広域経済圏構想「一帯一路」である。

ところが皮肉なことに、新型コロナウイルスという世界共通の惨事によって、「中国の神通力」は相対的に弱まってしまったのだ。なぜなら、どの国・地域も、すでに中国の力ではどうしようもならないほど経済が落ち込んでしまっており、国境封鎖などで「一帯一路」もあったものではないからだ。

加えて、当の中国も、第1四半期にマイナス6.8%成長となってしまい、他国を助けるよりも、まずは自国の経済復興を優先させねばならない状態だ。

そうして中国にも余裕がなくなった結果、社会主義の「強権的な部分」が露呈するようになった。各国に対する「戦狼外交」や、香港に対する国家安全維持法などである。

 

これによって、民主国家や地域は、急速に中国との関係を再考し始めた。そして今回、5年以内に中国を抜いて世界一の人口大国になると言われるインドが、その列に加わったのである。折りしも、昨年5月に再選されたモディ政権もまた、「ミニ習近平政権」のような「戦狼外交」を展開中だ。