立ちはだかる120億円の壁…半沢直樹「伊勢島ホテル事件」を振り返る

5分で分かる「半沢直樹」⑤
村上 貴史 プロフィール

3Dの難局

相手先と身内の問題に加えて、上からも難題が降ってきます。金融庁です。この組織が検査に乗り込んでくるのです。これをきちんと乗り切らないと、引当金だったり頭取のクビだったりが現実のことになりかねません。半沢直樹視点でいえば、X軸にもY軸にもZ軸にも難敵が存在しており、いってみれば3Dの難局に放り込まれたようなもの。それを災難といえないのが宮仕えの辛いところですねぇ――というか半沢直樹はそんな愚痴は漏らさず、やるとなったらきちんとやります。とことんやります。忖度なしに突き進みます。その暴れっぷりが抜群に痛快なことは、皆さんご存じですよね?

イラスト/ジェントルメン中村
 

さて。「さて、2です」と冒頭で書きましたが、この2についても少しだけ説明を加えておくとしましょう。実は池井戸潤さんにとって、いわゆる続篇の書籍が刊行されるというのは、この作品が最初なんです。デビュー作『果つる底なき』の主人公が『銀行狐』に収録された短篇に再登場したことはありましたが、長篇の続篇というのは、作家デビューから10年が経過した2008年に刊行された『オレたち花のバブル組』が、初めてでした。

第1弾である『半沢直樹1』が刊行されたのが2004年のこと。当時、ご自身ではこの作品がが気に入っていたそうですが、一部の読者の方からは、そこで描かれる銀行がリアルじゃないとの否定の言葉が寄せられることもあったそうです。それでもやはり気に入った作品ということで、池井戸さんは続篇を書きました。当時はまだTVドラマ『半沢直樹』も放映されていなければ『空飛ぶタイヤ』も『下町ロケット』も刊行されておらず、池井戸潤さんの知名度もそれほど高くなかったなかでの続篇執筆決意でした。

その判断がどういう結果をもたらしたのかは、皆さんもご存じですよね。そう、《半沢直樹》シリーズは大人気となったのです。もしもあのとき続篇の執筆を断念していたら……。そう考えると空恐ろしくなりますね。《半沢直樹》シリーズを満喫できている今日を、しっかりと喜ぶとしましょう。