黒人女性と結婚した私が「ジョージ・フロイド事件」から考えたこと

日本人として、このニュースに対峙する
鈴木 裕之 プロフィール

やがて高校を卒業し、フランスの地方都市の大学に進学した際、「ママは僕を見捨てるの?」とぼそりとつぶやいたという。すでにふたりの息子を同様に送りだしている友人は、ちょっとメランコリックになっているだけだろうと思い、たいして気に留めなかった。

おそらく、アフリカでのびのび育った彼は、フランスの冷たい空気のなかで孤独を感じていたのだろう。やがてアラブ系の彼女ができ、その家に足しげく通うようになったが、そこが「イスラム国(IS)」への窓口となった。

「あの子とは連絡がとれなくて、彼と仲の良い次男がときおり近況を伝えてくれるの」とつぶやく彼女の顔には、苦悩の色が深く刻まれていた。

〔PHOTO〕iStock
 

血の通った現実

世界中に「イスラム国」の戦士になるためにシリアを目指す若者がいる、というニュースは聞いたことがあったが、そこにあるのは表情のない顔をした、匿名の若者たちの群れであった。

だが、あの一件以来、そのニュースは他人事ではなくなった。すくなくともそこに自分の知っている顔がひとつあることで、私の一部とつながりを持つ「現実」となったのである。

政治的文脈で日々われわれのもとに届けられるおおくのニュース。その裏には、血の通った人々の生きた現実が、個々の「ストーリー」がある。子を想う母の気持ち。母に反発する息子。愛情、友情、喜び、悲しみ、憎悪、怒り……こうしたものが人々を突き動かし、事件を起こし、世界をかたちづくっている。