何が日本のPCR検査拡充を阻んでいるのか? キーパーソンに聞く

小林慶一郎氏インタビュー前編
高木 徹 プロフィール

必要なのは政治のリーダーシップだ

――検査の数を大幅に拡充することについて、以前は医療現場への負担などを心配する向きもあったと思います。こうした懸念についてはどう考えますか?

小林: 全く無症状の人がいきなり医療機関にやってきて検査するということになれば、現場を混乱させる恐れがあります。そうならないようにするべきです。また、陽性の無症状者や軽症者は、医療機関に入院するのではなくホテルなどに入ってもらい隔離する政策がとられていますから、そうした人たちが医療機関を満たすことにはならないのです。

逆の言い方をすれば、具体的な検査数の増強の数値計画を定めてはじめて、こうした施設の必要数の想定と確保ができます。

さらには、新規の入院患者の方への検査を行うことは院内感染を防ぐことに繋がります。これも検査の拡充が医療現場の負担をむしろ軽減することにつながると考えます。そして、予算と人材、資源を積み増しし、検査能力と医療対応能力が増強できるようにしっかりと支援していくことが大切です。

 

小林氏は、こうした考えをまとめるにあたって医療従事者の意見も幅広く聞いている。それは、小林氏が中心となって6月18日に出された「緊急提言」(https://www.tkfd.or.jp/research/detail.php?id=3456)の賛同者の中に、京都大学の山中伸弥教授や医療の最前線で病院経営に携わる医師たちも入っていることにも見て取れる。

それだけでなく、そこには、多種多様な学界、経済団体、経営者、労働界、各県知事、ジャーナリスト、法律家、シンクタンク研究者、スポーツ関係者など、日本中のありとあらゆる分野の巨頭たちが揃っており、そのネットワーキング能力の卓越ぶりに驚かされる。なにしろ、経済界のトップである三村明夫日商会頭や榊原定征前経団連会長と、労働界の神津里季生連合会長が名を連ねているくらいなのだ。緊急事態を前にまさに呉越同舟と言える。

これはもちろん小林氏の主張が各界の実務や深い経験と見識を積んできた幅広い人材や指導者たちに対して普遍的な説得力を持つことの証明であり、こうしたさまざまな見地を総合した上での対策こそが、いまや国民全員、あるいは人類共通の課題となっている新型コロナウイルスに対峙する上で必要なのだ。

――これまで安倍首相をはじめ、政府や各自治体のさまざまな要人たちが「検査の拡充」について触れてきました。確かに数は増えてきていますが、まだまだ各国のレベルには遠く、第二波のおそれもある中、多くの人が不安に思っていると思います。小林さんの提唱する数値目標に向けても隔たりがあります。検査体制強化へのポイントはどこにあると考えますか?

小林: 今はどうしてもボトムアップなんですよね。要するに各地域の自治体でどれぐらい検査が必要かというのを調べて、それを集計して厚労省でまとめてから検査の件数を増やしていくというボトムアップのやり方になっていて、このやり方だと確かにスピードがなかなか出ないだろうということはあります。

ですので、政治のリーダーシップが重要です。首相官邸がしっかりと目標値を定めて全体の号令をかけて調整するというやり方をしないとスピードが出ないと感じます。

大きな方向性を決めるというのはやはり政治の役割で、官邸が動く必要がありますし、そうすれば、周囲ももっと動きやすくなると思います。

前述の「緊急提言」は、7月1日に、榊原前経団連会長、神津連合会長らとともに小林氏の手から西村内閣府特命担当大臣に提出されている。その内容は極めて明確だ。

9月までに10万人、11月末までに20万人、実行できるのかしないのか、ここから先は政治のリーダーシップがどのように発揮されるのか、そこにすべてはかかっている。そして多くの人の眼が、その行方に注がれている。

(後編はこちら:「給付金は毎月10万円を12ヵ月」現実に実行可能な策を明かそう  https://gendai.ismedia.jp/articles/-/74008