60代の僕が振り返る、人生をつくった中学時代の「読書の基礎力」

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「落語が字で読める」驚き

私は子供の頃、落語が好きでした。毎日ラジオで文楽や志ん生、圓生の落語を聴いて、耳で覚えてしまい、小学校の学芸会で披露したこともあります。人生で最初になりたいと思ったのは、落語家でした。

わが落語鑑賞』(当時のタイトルは『落語鑑賞』)は祖父の本棚で見つけて小学生のときに読み、それまで耳で聴いていた落語が字で読めるということに驚きました。

この本には「富久」「寝床」「明烏」といった落語の古典が名人の演出をもとに書き起こされています。それもある一回を起こしているのではなく、例えば「明烏」は八代目文楽のエッセンスが凝縮されている。

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さらにそこに安藤鶴夫ならではの卓越した解釈が加わる。小学生にはいささか難しい内容でしたが、何となく聞き流していたことが活字になると、明確な形をともなって頭に入ってくることに感動しました。この本は、活字の持つ力を教えてくれたのです。

それにこの本と出会わなければ、私の落語熱も小学校で冷めていたかもしれません。というのも私が入った麻布中学は、やれジャズだ、ロックだ、映画だと背伸びをしたがる前衛小僧たちばかりだったからです。当然私も影響を受け、中学2年で『映像の発見』を読みました。

この本で私は、『戦艦ポチョムキン』『市民ケーン』『アンダルシアの犬』といった名作を知り、映画館に足を運ぶようになります。松本俊夫さんの文章はその映画についての説明をしながら、読者に映画を見たいと思わせる力があります。

 

いちばん驚いたのは、「映画を見ることは、世界を相手に思想的な戦いをすることだ」という主張です。映画は娯楽だと思っていた私の映画観は、ここで大転換をとげました。今は映画評の仕事をしていますが、そもそもの始まりはこの本でした。