悪いことは重なるものです。
母親が入居して数か月後、K男さんの勤務先は業務縮小により、ボーナスが激減。月12万円の援助をするために、蓄えの取り崩しが始まりました。
「妻からは、『これ以上は無理』と最後通告を受けました」
K男さんは悩んだ末、母親を、母親の年金だけで生活できる特別養護老人ホーム(特養)へ移すことを決断。しかし、近所の特養は満床で、見つかったのは片道2時間近くかかるところでした。
多少遠くても特養を見つけることができ、良かったのでは、と思うのですが、K男さんの罪悪感はふくらむ一方です。
「近所ならともかく、縁もゆかりもない土地の特養に入れるのは忍びなくて。死んだ父親にも顔向けできない。母親を家に引き取りたいと、妻に相談したのですが、きっぱり断られました。粘れば、妻は離婚すると言い出しそうな勢いでした……」
そして母親は、K男さん曰く「へんぴなところにある特養」に入居。K男さんは、毎週末片道2時間かけて母親に会いに行くようになりました。
ところが、今年の春は新型コロナの影響で特養での面会が禁止に。3か月間も会えない状態が続いたのです。
6月下旬、ようやく短時間の面会が再開されてK男さんは会いに行きましたが、母親の認知症は進んだようで、K男さんのことを分かっているのか、分かっていないのか……。
「施設を転々とさせ、面会もできず母には辛い思いをさせてしまいました。感染拡大の状況によっては、また面会できなくなるかもしれません……。こんなことなら、妻が嫌がっても自宅に引き取るか、住み慣れた実家近くの施設に入れるんだった」とK男さんは後悔しています。