あなたが「他の人と同じ景色を見ている」と錯覚できるわけ

量子時代の「観る」ことの意味
松浦 壮 プロフィール

古典の世界観というのは、「存在しているものは、見ることとは関係なく存在している」という仮定の下に積み上げられたネットワークです。「誰も見ていない月は存在しているのだろうか?」は有名な問いですね。これは、常識的には、「もし見たとしたら百パーセント見えるはずなので、存在しているのだろう」となります。

先ほど述べた「存在が確認可能ならば、それは人が見ようと見まいと存在している」という立場です。この世界観は古典物理学で採用され、私たちの常識を支える脳内ネットワークは、この古典物理学に裏打ちされながら構築されてきました。

ところが、20世紀に登場した「量子力学」は、ここに大きな一撃を加えました。「存在が確認可能ならば、それは人が見ようと見まいと存在している」という立場を採用すると自然現象が説明できないことがわかってしまったのです。これは強烈です。常識的な世界観を形作るネットワークの根底を真っ向から否定してしまったのですから。

たとえば、ひとつの電子が机の上に見つかったとしましょう。これは通常、「たとえ探さなかったとしても、その電子は机の上にあったのだ」と解釈されますが、量子力学は違います。「見る前は確定していなかった電子の居場所が、見ることで机の上に確定した」と考えるのです。別に煙に巻きたいわけではありません。こう仮定しないと自然現象が説明できないのです。

この現象に代表される量子の理は、宇宙を支える根源の理です。であるにもかかわらず、量子力学は私たちの直観をはねつけます。なぜか。答えは簡単で、私たちの直観が古典物理学によって焼き付けられてきたからです。

ですが、量子力学はとっくの昔に完成し、私たちは量子現象を計算する完璧な方法を手に入れています。

量子コンピュータすら現実になりつつある現代、量子力学は社会のあらゆる場面に顔を出すありふれたものになりました。存在と観測を別々に捉えることで世界を切り取る、「量子力学」という言葉によって括られた意味のネットワークは、今まさに私たちの脳内に焼き付けられようとしています。

【写真】量子論によって私たちの世界観は一新される
  「量子力学」という言葉によって括られた意味のネットワークが脳内に焼き付けられたとき、私たちの世界観は一新されるだろう Photo by gettyimgaes

かつて主流だった天動説が葬られ、今や「地動説が当たり前」となっているように、遠からず古典の世界観は葬られ、「量子なんて当たり前」の時代がやってくるでしょう。

そこに向かう方法はただひとつ。正しい量子力学で紡がれた「言葉」を触媒に、脳内に新しいネットワークを積極的に刻むことです。そこに踏み出す第一歩として、ブルーバックスから1冊の本を上梓させていただきました。『量子とはなんだろう』楽しんでいただけますように。

量子とはなんだろう
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