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あなたが「他の人と同じ景色を見ている」と錯覚できるわけ

量子時代の「観る」ことの意味

大きな反響をいただいた前回の記事で、『量子とはなんだろう』の序文を公開し、「見えている世界は、世界そのものではない」と断言した慶應大学教授の松浦壮さん。

いま、私たちは、かつて天動説が地動説に移り変わったように、古典の世界観から量子の世界観に向かう大転回の真っ最中にいるのだそうです。

「この新しい時代には、『観る』ということ・『識る(しる)』ということの本質をまっすぐに見つめることが本当に大切なんです」

と松浦さんは語ります。

それはいったいどういうことなのでしょうか? 今回、改めて本書に込めた想いを書き下ろしてもらいました。

不思議な量子の世界を理解するための第一歩を、紹介しましょう――。

私が見る色・あなたが見る色

こんな不安に駆られたことがある人、いるのではないでしょうか?

「私の見ている色は、他の人が見ている色と本当に同じだろうか?」

なにしろ、感覚というのは個人のものです。他の人の脳を使って考えることができない以上、相手が何を見てどう感じているかは想像するしかありません。

恋人と並んで同じ景色を眺めていて、ふたりとも心の底から「きれいな夕日」と思っていたとしても、恋人が感銘を受けている夕焼けは、あなたが見ている色合いとはまったく違っているかもしれません。

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誰よりも近くにいると思っていた恋人が、じつは自分とはまったく違った世界を見ているのかもしれない。これは不安なことです。

言葉を交わそう

とは言え、実際にはさほど神経質になる必要はありません。なぜなら、私たちには「言葉」があるからです。相手が何を見ているのか知りたければ言葉を交わせば良いのです。

茜色の夕日のこと、微妙に色合いを変える雲のこと、夜の気配をにじませる群青色の空のこと……。「きれいな夕日」を見ながら恋人が紡ぐ言葉は、まず間違いなく、あなたが見ている風景と一致するはずです。もちろん、文字や音声を伴う狭い意味での言葉である必要はありません。身振りや表情だけで伝わることもあります。絵を描いても良いでしょう。状況が許すなら音楽やダンスだってOKです。

これらはすべて、広い意味で「言葉」です。恋人たちは、「言葉」を介すことで、ふたりが同じ世界に暮らし、同じものを見て、同じ感覚を共有していることを確信し、愛を深めていくわけです。

【写真】夕日の美しさを共有できるのはなぜ
  「言葉」を介すことで、美しい夕日も共有できる Photo by gettyimgaes

もちろん、これは恋人同士に限った話ではありません。私たちは日頃から、色々な「言葉」を交わしながら、他の人たちが自分と同じ世界を観ていることを確認し、それに安心しながら暮らしています。

「自分も他人も同じ世界の中にいる」という確信を持つためには言葉が不可欠です。