教員も驚いた…今の大学生が「マルクスに共感」するようになっている

彼らはこの思想家に何を見ているのか
田上 孝一 プロフィール

最初に担当した科目はゼミで、選んだテキストは、倫理学者であるピーター・シンガーの『マルクス』だった。これは最近新版も出た英語圏では定評のあるテキストで、著者のマルクス解釈は一面的で浅いところがあるものの、基本的な解釈視点は適切で、推薦できる入門書の一つといえる。

この時の受講生のリアクションがどうだったのかは残念ながら覚えていないが、これ以降はゼミではなく講義課目で毎年マルクスを取り上げ、今に至るも実に25年以上、マルクスを教え続けている。

そうした時間の経過の中で、いつ頃からかは定かではないが、学生のマルクスに対するリアクションが、明らかに変化してきたのである。

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マルクスを否定する声が減っていく

私がこのことを意識するようになったのは、博士論文の出版が一つの節目になっている。大学で教え始めて以降もマルクス研究に没頭し、その成果を博士論文として一冊にまとめ、2000年に出版した。このことに対して当時、たまたま某所で私の現役か過去の受講生らしき者が揶揄するのを見かけたことがあったからである。

哲学研究者なのにマルクスが大好きでわざわざ博士論文まで書いた私に対して、当時の学生に軽いからかいの気持ちが芽生えることは、からかわれた私としても、もっともだと思われたものである。

振り返ってみるとこの時期までは、いかにも「時代遅れ」と見なされているマルクスの哲学思想を、しかし嬉々として語って飽きることのない私の姿は、少なくない学生に奇異なものと映っていたようである。実際匿名のアンケートどころかレポートや試験の答案であっても、マルクスを講義することの不当性や憎しみの言葉が散見された。

なぜ今頃マルクスなどという古臭い話をするのか、資本主義以外の社会がありえないのは当たり前なのに、なぜ批判をするのかという声である。こうした声、特に後者の資本主義以外の社会はありえないというのは現在の学生からもよく聞かれるが、当時は今よりも語気強く語る学生が多かった。今はソ連はマルクスのいう「共産主義」ではないという話は比較的すんなり受け入れられることが多いが、かつては何度言っても共産主義=ソ連という認識を変えない学生が多かった。