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天才・小島秀夫が仰天した「伊坂幸太郎という男」の凄み

最新刊『ホワイトラビット』によせて

『ゴールデンスランバー』『重力ピエロ』『グラスポッパー』などのベストセラーを生み出してきた作家の伊坂幸太郎さん。そのヒット作のひとつ、『ホワイトラビット』がこの度文庫版として新たに発売された。

誘拐業を生業とする男の妻が誘拐されるというシーンから物語が動き出すこの小説では、伊坂氏が学生時代を過ごしたおなじみの仙台を舞台に予想外の展開が繰り広げられ、2017年に単行本として発売されるやいなや、人気を集め翌年の「このミステリーがすごい!」では第2位に選出された。

文庫版に寄せて、『メタルギアソリッド』や『DEATH STRANDING』などを開発した世界的ゲームデザイナー小島秀夫氏が、作家・伊坂幸太郎さんと小説の魅力を余すことなく解説。 自らの創作にも重ね合わせ<伊坂幸太郎という穴に見事にはまってしまった>と語る小島氏の解説全文をここで公開する。

A Hole 伊坂幸太郎という“穴”

それにしても『ホワイトラビット』の解説を依頼された二〇一九年の年末に、オリオン座のベテルギウスが爆発するかもしれないというニュースが飛び交うことになるとは、さすがに偶然にもほどがある、都合が良すぎる。なにしろ、ベテルギウスが爆発すると、中性子星(パルサー)になると考えられているが、もっと質量が大きければブラックホールになるのだから。

小説を未読で、この解説から読み始めている読者にとっては、何のことかわからないかもしれないが、先に結論を述べてしまうと、小説とはベテルギウスなのだ。

オリオン座の肩で輝くその赤い星は、地球からおよそ六四〇光年離れている。私たちが見ている光は六四〇年前のもので、既に発せられたものの残像である。それを、あたかも今生まれた光だと錯覚してしまうのだ。とっくに爆発している可能性もあるというのに。

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作家は錯覚を演出する。過ぎ去った幻を実在するものとして見せる、あるいは、過去に起きた出来事を未来の予言として語る、それが小説というエンタテインメントなのだ。

『ホワイトラビット』は、“ブラックホール化する(した)ベテルギウス”であり、夜空に浮かぶ星のひとつである。しかしそれは、今も実在するかどうか定かでない星のように我々を照らす「変な小説」だ。

だから、物語が始まってすぐ、あるキャラクターにこんなことを言わせる。

「あの小説って、ところどころ、変な感じですよね。急に作者が、『これは作者の特権だから、ここで話を前に戻そう』とか、『ずっとあとに出てくるはずの頁のために、ひとつ断っておかねばならない』とか、妙にしゃしゃり出てきて」

「あの小説」とは、ヴィクトール・ユゴーの『レ・ミゼラブル』のことなのだが、それは同時に、『ホワイトラビット』のことでもある。作者は開幕してすぐに、『ホワイトラビット』が「変な小説」であることを、自ら告げるのだ。読者が「変な感じ」を抱くより前に、半歩先回りしてそれを宣言する。