近所づきあいの希薄さが応急手当を妨げる

東京都における社会復帰率を向上させるには、「救急隊の覚知から現場到着までの所要時間が長い」「覚知から病院収容までの所要時間が長い」「救急隊到着前に一般市民による心肺蘇生が実施されていない割合が低い」の3因子の改善が重要だが、「今、自分にできる一番の取り組みは、一般市民による応急手当の実施率を高めることなのではないか」と中澤さんは考えた。一般市民による「共助」を後押しすることで、救急隊と病院による「公助」を補おうというのだ。

そこで次に、「なぜ、東京都では他地域よりも応急手当の実施率が低いのか」を調べてみた。浮かび上がってきたのは以下の4点だった。

(1)「応急手当ができると思う人」の割合が低い2017年に内閣府が公表した救急に関する世論調査によると、全国平均は41.4%なのに対して、東京都区部は30.4%。東京都は応急手当講習を頻繁に開催し、改善に努めている。

(2)都民の、応急手当について不安に思うことの上位3項目は「正しくできるか」「間違えて悪化させないか」「失敗して責任を問われないか」
こうした不安を軽減して、応急手当の実施率を向上させるために「東京都バイスタンダー保険」を設立し、2015年より運用している。これは、救急隊が出場した救急事故現場で、居合せた市民が応急手当を実施したことにより、受傷や感染危険が生じた場合に補償を行うほか、処置の失敗で損害賠償請求がなされたときの補償もしてもらえる。

(3)世帯人員が少ない
東京都の1世帯当たりの構成人員は47都道府県中最少の1.95人(全国平均2.26人)で、二人に満たない。そのため、一人が心停止に陥った場合、周囲に応急手当ができる人が居合わせる可能性が低い。

(4)ご近所づきあいが希薄世帯内での応急手当が難しい場合は、隣近所による「共助」を頼りにしたいところだが、「平成28年度社会意識に関する世論調査(内閣府)」によると、東京都区部は他の都市に比べ、近所と「あまり付き合っていない」「まったく付き合っていない」の割合が合計46.6%と高い。同調査では、政令指定都市37.7%、中都市34.6%、小都市26.2%、町村24.4%となっている。

2016年、東京における心停止傷病者の7割が住宅内で発生しており、応急手当が施されたのはそのうち22.6%だという。

「東京では、隣に住んでいる人の顔も分からないというのは普通ですよね。地方ではありえないことですが。そんな環境で倒れて、誰かが居合わせたとしても、助けるより先に、『間違えたらどうしよう』とか『失敗して訴えられたらどうしよう』とかを考えてしまいがちであることは容易に想像がつきます」(中澤さん)