「助けたいのは山々だけど…」

こんなふうに医療のプロたちですら不安なのだから、一般市民が「助けたいのは山々だけど、(もしも相手がコロナの感染者で、うつされてしまったらどうしよう…)と躊躇してしまう」としても仕方ないのかもしれない。

しかし日本体育大学保健医療学部救急医療学科で准教授を務める救急救命士の中澤真弓さんは訴える。

「倒れたところに居合わせた市民が応急処置を行った場合としなかった場合では、たとえば心停止で搬送された患者さんの社会復帰率は2.5倍も違ってきます。感染を避けながら救命するための方法として『新型コロナウイルス感染症を前提とした市民救命法指針の変更』が発表されており(2020年5月21日)、厚生労働省のホームページで見ることができます。なんとか勇気を出して、助けてあげて欲しい」

日本体育大学救急蘇生・災害医療学研究室准教授・中澤真弓さん

中澤さんは東京消防庁で約20年間に渡って勤務した後、「救命救急の課題を解決するにはどうしたらいいのかを研究するために」政策研究大学院大学に入学した。

「救急車で5000~6000回は出動した経験があります。救急隊は傷病者の元に一刻も早く行って助けたいという気持ちがありますが、119番通報があってから救急車が現場に到着するまでの時間は、1998年の6.0分から20年間で、2018年では8.7分に延びています。到着が1分遅くなるだけで、救命率も社会復帰率もガクンと落ちます。

また現場到着後は、できる限りの処置をしながら搬送先を決めて病院へ向かうわけですが、なかなか決まらないケースも多くあります。東京都の場合、高層階や地下街などの建物構造の複雑化もあり、119番入電から病院へ搬送され医師に引き継ぐまでの所要時間は平均50分を要し、全国平均の39.5分を大幅に超えています(2018年中)。

他にも、高齢者のご家族が、救急隊到着後に蘇生を拒否されるケースの増加など、救急の現場には解決しなければならない課題がいくつもあります。それらを少しでも改善したいのです」