2度目の妊娠でも告げられた「陽性」の結果
「それから、またすぐに、授かったのです! 春で、季節も前の子とぴったり」
好美さんの二度目の妊娠は、すぐにやってきた。同じクリニックに行ったところ、以前と同じ妊娠11週の時に、同じ部屋で同じことが起きた。「NTが厚いです」と言われたとき、今回は、もう、それだけですべてがわかり、好美さんは、その場で泣き崩れてしまった。
同じ説明が全部あって、再び仕事中の貴彦さんも呼ばれた。すべては録画をリプレイしているよう。今度は羊水検査を受ける前に大学病院へ行ってNIPT(新出生前診断)を受けたが、結果は陽性と出てきた。
「その時点で、もう観念したという感じですね。出生前診断で子どもを選べる時代だなんて、大間違いだと感じました」
その瞬間を、好美さんはそう振り返る。
この時、もう好美さんは泣かなかった。迷いもなかった。もう二度とあんな悲しいお産はしたくない。そして、好美さんのその苦しみの深さを誰よりもわかっていたのは、他でもない、貴彦さんだった。
今度は、2人の気持ちは、自然に一致した。
貴彦さんにその時のことを聞いてみると、自然に「この子を産もう、育てていこう」という気持ちが湧いてきたのだという。
「子どもとの出会いは縁なのだと思ったのです。生まれてきたい、という子どもの意志のようなものを感じ、運命に観念したというのでしょうか。子どもをまるでゲームでカードを引きみたいにだめだったら次、また次、とやっていくのは、いくらなんでも違うと思いましたから、もうそんなに考えずに、割とストンと」
好美さんは、その日、産まなかった子の仏前にすわり、自分と夫が今、気持ちをひとつにしていることを報告し、心の中で話しかけた。
(ママとパパがこうなるように、あなたが導いてくれたの?)
好美さんは言う。
「息子からの答えはないんですけれどね。ただ、子どもは親を育てると言いますが、本当だなと思いました。親は障害児を産むとか産まないとか悩んでいますけれど、子どもは、自分の命をかけて、もっと深いことを親に教えているんではないかと思います」
好美さんは、たくさんのダウン症児を診ている小児科やNICU(新生児集中治療室)のある総合周産期母子医療センターに転院して専門医の診察を受け始め、SNSを通じ他のダウン症児の親たちとの交流を持つようになった。
母親としてずいぶん強くなっていることを、好美さんは時折自分で感じる事があった。