約1年前に公開された『新聞記者』はモリカケ問題に鋭く切り込んだサスペンスエンターテイメントで、本年度の日本アカデミー賞の最優秀作品賞、主演女優賞(シム・ウンギョン)、主演男優賞(松坂桃李)の3冠に輝いた。

現在進行形の政治事件を題材にしたフィクションは過去に例がなく、日本映画界に衝撃と興奮を与えた。この作品の企画・製作・エグゼクティブプロデューサーを務めたのが、映画制作・配給会社のスターサンズを率いる河村光庸氏だ。

河村光庸氏

東京新聞・望月衣塑子記者の著書『新聞記者』を原案としたこの作品と同年、望月記者を追いかけたドキュメンタリー『i -新聞記者ドキュメント-』も制作。『新聞記者』と『i -新聞記者ドキュメント-』をセットで企画するという斬新なアプローチをとった河村氏は、これまでも気鋭の監督を起用し、『かぞくのくに』(2012)、『あゝ荒野』(2017)、『愛しのアイリーン』(2018)など日本の社会問題をあぶり出す話題のエンタメ作品を次々と生み出してきた。そんな河村氏に、コロナ禍で変わりゆく映画界、そして新作『MOTHER マザー』について聞いた。

「映画とは何か」と向き合うことになった

コロナ禍は映画界全体に深刻なダメージを与えた。多くの現場で撮影が未だ再開しておらず、劇場はソーシャルディスタンスで満席にできない。だから今でも製作、配給、興行業務に関わる人々は困窮している。

しかし一方で、想田和弘監督と配給会社東風による「仮設の映画館」(上映終了)や独立系配給会社13社が始めた「Help!The映画配給会社」など、配給会社や映画館が協力し合った新しいストリーミングが展開され、また劇場公開をスキップしてNetflixなどのストリーミング・プラットフォームで先行して配信された作品もある。

ストリーミング・プラットフォームの存在感は今後一層増していくように思われるが、アフターコロナの映画界はどうなっていくのだろうか。

「映画の作り手は、観客が映画館で最大の喜びを得られるように、という意図で映像を作っています。だからストリーミングの需要がどんなに高くなっても、映画館はなくならないでしょう。

でも、コロナの第2波、第3波が来ると仮定すると、劇場とストリーミングは今後、協力体制を築いて映画を公開していくようにしなければいけません。今回のコロナで、製作、配給、興行、すべての階層に関わる映画人が『映画とは何か』と考えるようになったと思います」(河村氏、以下同)