北朝鮮にどれほど邪険にされても文在寅政権には痛手にならない理由

統一はもはや「どうでもいい」目標
木村 幹 プロフィール

会えれば御の字だった

このことを理解する為には、まず、政権が成立した2017年の状況を振り返る必要がある。

当時は依然、北朝鮮が核兵器や弾道ミサイルの実験を繰り返していた時期である。同年1月に就任したトランプ米大統領はこの北朝鮮の動きに対して、強硬な姿勢を見せており、一部では北朝鮮に対する軍事行動が今すぐにでも開始されるのではないか、という観測が為されるほどだった。

そしてこの様な緊迫した状況の中、2017年5月に成立した文在寅政権の最大の外交的目標は、何にもまして、緊張緩和の為に北朝鮮との対話の実現に置かれていた。

この政権にとって、北朝鮮との対話の実現は最大であるのみならず、事実上、唯一の外交方針の柱とすらいえる重要性を与えらえており、外交的努力のほぼ全てがその実現に向けられる事になった。

文在寅とその政権にとっては、日本や中国との関係すら、この目標の実現の為の一要素としてしか位置づけられていなかった。

とはいえ、この時点では韓国は北朝鮮との直接の交渉のパイプを持たなかったから、対話実現の為の手段は、まずはその環境整備に向けられた。

具体的なターゲットはアメリカだった。つまり、北朝鮮への強硬姿勢を見せるトランプ政権へと積極的な働きかけを行い、対話へと導こうとしたのである。だからこそ、彼らは平壌にではなく、ワシントンに対して使者を頻繁に送り、トランプ政権への説得工作を試みた。

とは言え、この時点では目標とする対話の実現は遠い将来の事に思われた。

1948年の朝鮮民主主義人民共和国成立以後、米朝首脳会談が行われた事は一度もなく、南北首脳会談すら、文在寅政権成立の10年前、2007年に2回目の首脳会談が行われたのを最後に途絶えていた。北朝鮮を巡る国際環境はこの10年間に大きく悪化しており、状況が好転する兆しは見られなかった。

だからこそ、この時点での文在寅にとって、北朝鮮との対話の実現は依然、遠い目標であり、自らの任期中に一度でも首脳会談が実現できれば御の字だと言えた。

そもそも2000年に初の南北首脳会談を実現した金大中にせよ、また、2007年の盧武鉉にせよ、過去に南北対話を実現した歴代大統領もまた、自らの任期中に一度の首脳会談を実現したに留まっており、具体的な成果は何も上げる事ができなかった。

 

困難な状況の中、南北首脳会談が実現できれば、文在寅はそれだけでこれらの歴代の進歩派大統領と並ぶ事になる。そしてそれは外交経験に乏しい文在寅にとって十分すぎるほどの「勲章」になるものと思われた。

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