中国には、月収3.3万円以下「困窮」人口が9.6億人存在する…

李克強「全人代」爆弾発言を深読みする
北村 豊 プロフィール

貧困人口を救済したところで

ところで、上述した中国で貧困人口を算出する根拠となるのは「貧困標準(貧困基準)」あるいは「貧困線(貧困ライン)」である。中国が貧困基準を最初に定めたのは1978年であり、その金額は人口1人当たり平均の年間純収入100元で、この基準に達しない貧困人口は2.5億人であった。その後の推移は次の表の通りである。

中国政府は第12次5カ年計画(2011~2015年)の初年度である2011年11月に2010年の農民1人当たり平均の年間純収入であった2300元を貧困基準に定めたが、これは2010年時点に現行基準であった1274元から80%引き上げた。

この結果、新規に定められた貧困基準2300元は2010年から適用となり、旧基準では2688万人まで減少していた貧困人口は新基準となって6倍以上の1億6567万人まで急増したのだった。

すでに何度も述べたように、2019年の貧困人口は551万人で、2020年末までには貧困人口をゼロとして、中国共産党の悲願である「小康社会の全面的完成」を実現することが予定されていたが、新型コロナウイルス感染症の蔓延によりその実現は危ぶまれている実情である。

李克強は貧困基準を下方修正することにより貧困人口の撲滅は可能であり、「小康社会の全面的完成」は実現可能と述べてはいるが、記者会見で彼が述べた「6億人の中国国民が月収1000元」という衝撃的な事実は、実質的に「ややゆとりのある社会」を意味する『小康社会』を全面的に完成させるのはさほど近い将来ではないと思われる。

世界銀行は2015年10月に国際貧困ラインを従来の1日1.25ドルから1日1.9ドルに改訂した。この1日1.9ドルを人民元に換算すると1日約13.5元になるが、これを年間(365日)で計算すると、4928元(約7万4700円)となる。

これに対し2019年の中国貧困基準は年間3747元(約5万6800円)に過ぎず、国際貧困ラインより約24%も低く設定されている。国際貧困ラインの1日1.9ドルを中国に適用すれば、貧困人口は現行の551万人を大きく上回り、1000万人以上の規模に膨れ上がることが想像に難くない。

李克強が全人代閉幕後の記者会見で、あえて上述したような爆弾発言を行った真の意図は不明ながら、中国共産党が悲願とする貧困撲滅の実現は虚飾であり、中国には依然として6億人もの生活困窮者が存在することを公表することにより、中国社会における貧富格差の是正や弱者救済の強化を提起したのではなかろうか。

 

それにしても、月収2000元(約3万300円)以下の人口が9.64億人に及び、それが総人口の68.9%を占めるという事実は、世界第2の経済大国には全くもって似つかわしくないと言えよう。