疑惑の「河井夫妻問題」、新聞・テレビが見逃している「重大な論点」

法相任命は「指揮権」狙いだったのか
與那覇 潤 プロフィール

当時は第5次吉田茂内閣で、与党である自由党の幹事長は佐藤栄作(後に自民党政権で首相)。検察庁は佐藤幹事長を逮捕して取り調べる方針を決めたものの、犬養健法相が「強制捜査を“すべきでない”」(=逮捕中止)とする形で指揮権を発動し、決定を覆させました。

強引な法解釈という自覚があったのか、犬養は翌日に大臣を辞任。世論の憤激を浴びて、同年末には長期に及んだ吉田政権も倒れますが、ともかく指揮権発動によって「捜査をさせない」こともできるという先例ができたのです。

法相の「指揮権」で政治生命を救われた佐藤栄作〔PHOTO〕Gettyimages
 

昭和史上で指揮権発動にふたたび注目が集まるのは、1976年に判明したロッキード事件です。同年7月、前首相の田中角栄が逮捕。時の首相は三木武夫で、造船疑獄と同様の「指揮権発動による逮捕阻止」があるのかが争点になりました。

このときの法務大臣は稲葉修で、所属は幹事長派閥だった中曽根派(三木と中曽根康弘は政治思想は好一対ながら、戦後初期をともに「反吉田」で過ごした盟友)。彼が角栄逮捕を阻止しなかったため、田中派は憤激し、以降の内閣では法相ポストを執拗に要求し続けたことは広く知られています。

妻の選挙を終えた直後の河井克行氏を法相に任命した際、官邸はこうした過去の事例を意識しなかったのか。同氏が露骨に「妻を立件するなら(検事総長を介して)指揮権で止めてやる」と振りかざすことはないにせよ、その権限がある地位に就けるだけでも「忖度」や「萎縮」をもたらす効果は、予測できたのではないか。メディアや野党はそうした視点でこそ、きちんと安倍首相に説明責任を求めるべきではないでしょうか。