14年ぶり!アップルがCPU変更でデバイス大統合を狙う3つの理由

ライトユーザーには朗報、ではプロは?
西田 宗千佳 プロフィール

OSは、ユーザーインターフェースも含め、機器に合わせてつくる必要がある。単純に統合すればいいというものではないため、「スマホからパソコンまでまったく同じOS」というわけにはいかない。それは“失敗した道”であり、アップルは「そうしない」ことを選んできた。

しかし、OSにはさまざまな部分がある。それら各機能を完全にバラバラに開発するよりは、一貫性をもってつくったほうが、コストも開発効率も上がる。そのためには、CPUやGPUなどに一貫性があることが望ましい。

アップルはすでに、iPhoneなどのために独自のプロセッサーを設計している。その出荷量は、累計20億台分を超えている。ならば、その過程で蓄積した設計ノウハウを、半導体設計の面でもソフト開発の面でも活かしたいと考えているはずだ。

さらに、自社でプロセッサーを設計することになれば、「他社製プロセッサーの開発サイクル」を見ながら製品をつくる必要がなくなる。自社の都合に合わせて、半導体とソフトの開発をコントロールしやすくなる。

結果としてアップルは、すぐに「1つのOS」への統一を果たさなくても、内部的な「統一」によって、主要製品の開発効率やコストの面で有利な立場を維持できると予想される。

【写真】Phone用OS「iOS 14」その1
【写真】iPhone用OS「iOS 14」その2
  アップルの主力であるiPhone用OS「iOS 14」も、多数の機能アップをしている。これらの改善も、「アップル全体のソフト改善」の一環としてMacにも反映されていく

2つの仕掛け

メリットが大きいとはいうものの、CPUの変更は、メーカーはもちろん、ソフト開発者にもユーザーにも、「とにかく大変」な、負担を強いる出来事だ。CPUアーキテクチャが変わると、ソフトの互換性が失われるからだ。

2006年以前を知る古いMacユーザーならば、イヤな思い出の1つや2つ、蘇ってくるだろう。

アップルは過去に3度、MacのCPUアーキテクチャを変更しており、今回が4回目となる。Macがインテル製CPUに移行したのは、もはや14年も前(2006年)なので、若いユーザーは「パソコンとよばれるものはどれも、同じ系統のCPUを使っている」と無意識に思っているかもしれないが、それは違う。

Macは、歴史の半分以上をPCとは違うアーキテクチャで過ごしてきたのだ。

影響を最小限にするには、「CPUアーキテクチャが変わっても過去のソフトが動く」仕掛けが必要になる。今回は、2つの仕掛けが用意されている。

x86系macOS向けにつくられたアプリを、AppleシリコンのARMアーキテクチャ向けに「翻訳」しながら動かす「Rosetta 2」というしくみと、ソフトを開発する際に「x86版」と「ARM版」の両方を同時につくり、1つの塊として提供する「Universal 2」というしくみだ。どちらにも「2」がついているのは、過去にインテル製CPUに移行する際に使ったテクノロジーの名前を流用しているからである。

過去の轍を踏む……のか?

これらのテクノロジーは、果たして信頼できるのか? ユーザーが、過去のような移行にともなう痛みを強いられることはないのか?

筆者の予想は、「おおむね痛みはともなわないが、特にハイエンド事情などでの影響はまだ読めない」というものだ。

そう読む理由は、過去の「CPU変更」と今回のものとでは、背景がずいぶん異なる部分があるからだ。

まず、CPUの命令を翻訳する「エミュレーション」とよばれる技術が、劇的に進化してしている。CPUそのものの性能も上がっているので、変換にかかる負荷も相対的なものになった。

じつは、Windowsを手がけるマイクロソフトも、「x 86系以外のPC」を販売している。Qualcommとマイクロソフトが共同開発したプロセッサーを使った「Surface Pro X」がそれだ。

Surface Pro Xでは、x86系CPU用のソフトをARM用に読み替える機能を用いているが、使っていて「ひどく遅い」と感じることはなかった。アップルの「Rosetta 2」はマイクロソフトの技術より制限が小さいものなので、より快適に使えるだろう。

また、「ソフトのつくり方」も、以前とはかなり変わっている。CPUの命令に依存するプログラムの書き方をする例は減っており、開発環境からソフトを各環境向けに制作する段階で、初めてCPUの命令に依存した「アプリ」になるのが通例だ。特に、近年開発された大型アプリほど、その傾向にある。

基調講演では、マイクロソフトの「オフィス」やアドビの「Photoshop」「Lightroom」のAppleシリコン版がデモされていたが、これら各ソフトは、そうした「CPUに依存しにくい」つくり方で制作されたものだ。

「PowerPoint」最適化されたバージョンのデモ
【写真】「Photoshop」最適化されたバージョンのデモ
  マイクロソフトの「PowerPoint」やアドビの「Photoshop」なども、Appleシリコンに最適化されたバージョンのデモがおこなわれた

安心と不安と

この2点を合わせて考えると、ビジネスアプリケーションや軽めのゲームなどが中心ならば、初期から「さほど大きな影響が出ない」可能性は高い。

ただし、プロ向け用途は話が別だ。

ソフトのちょっとした機能に業務が依存している場合も多いし、周辺機器の対応も確認が必要だ。前述のように、トップパフォーマンスの面での懸念もある。特に、ハイエンドGPUとの組み合わせが必須となるようなもの(CG作成やAI処理、VRなど)をどうするのか、という点が気になる。

この点を考えると、やはり「移行期間2年のうちの大半は、課題が複雑なプロ向け用途の準備に使われる」と予想できる。

ちなみに、当面はインテル製CPUを使ったMacも出荷されるし、新製品のラインナップにも含まれている。「今の仕事を止めるわけにはいかない」人向けの配慮はなされているので、ご心配なく──。

西田宗千佳さんの最新刊は好評発売中!