人生にはいろいろな危機があるけれど、お金の苦労というのは、実に身動きができないような痛みがある。馬場千枝さん連載「お金と女の人生」、今回登場していただく女性は、子育てしながら精いっぱい働いても増えない収入と、住宅ローン、その上、夫の勤め先企業が倒産という三重苦に苦んだ。このままでは、あと3年で確実に破産するという危機的状況に陥ったという。本当に切羽詰まった時、彼女が始めたこととは……。

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刑事さんに100回頭を下げた日

26歳でお見合い結婚をして、看護師として働きながら、2人の子どもを出産した田中聡子さん(仮名)。長女が小学5年、長男が小学2年になったある日、夫が同居の実親と大げんかをして、「もう、こんな家を出るぞ!」と宣言。本当に飛びだしてしまった。子ども2人の手を引いて、聡子さんが慌ててあとを追いかけたら、夫は不動産屋に飛び込んで、なんと1750万円のマンションをその場で衝動買いする。

「『不動産みたいなものは半年とか1年とかリサーチして、適正価格のものを、組める範囲のローンで買うものだよ。親とケンカしたからといって、不動産屋に突っ込むバカはいない。借家にしよう』と言ったんです。でもぜんぜん聞かない。不動産屋も私が看護師だから、3000万円くらいは借り入れできますよと言うし。男の人は本当にリスクを考えない。俺が死ぬ気で働いて借金を返すと言ってはくれたけど……」

当時、同居の親に給料を渡していたから、夫婦の貯金はほぼ0円。全額借り入れでマンションを購入し、引っ越しをした。そこから聡子さんは三交代勤務でひたすら働いた。夜勤を終えて帰ったら、仮眠を取って夕方から出て行くという勤務が月に10回ほどあり、どうしても子育てに時間をかけられない。溶接関係の仕事をしていた夫は家事育児は一切やらなかった

聡子さんは子どものためにご飯を準備して、ポットにお湯を用意して、メモを置いて出かけるけれど、当時、小学生の息子はきっと寂しかったのかもしれない。中学生になった頃から、暴走族に入って暴走行為に熱中。抗争に巻き込まれてケンカ沙汰になり、ついには警察に逮捕されてしまう。勾留期間が終わり、刑事から連絡をもらった聡子さんは仕事を休んで迎えに行った。

「息子の将来がかかっていると思うから、私も必死でした。その場に刑事さんが30人くらいいて、私は『すいません』と言って100回くらい頭を下げました。そしたら刑事さんが『あんた、いつ離婚したの? これで父親がいたら違うのに』と言うんです。息子が『父親はいるよ。なんかあったら、全部、おかんになすりつけて(警察署には)来ないよ』と。刑事さんたちはみんな口をつぐんで。シーンとしていましたね」

母親が自分のために何度もお詫びするのを息子は見ていた(写真の人物は本文と関係ありません) Photo by iStock