世界中に広がる「Black Lives Matter(以下、BLM)」。このBLMムーブメントが広く知られるようになったきっかけは、2014年に米・ミズーリ州に住む18歳の黒人マイケル・ブラウンが白人警官によって射殺された翌日に起きた抗議デモだった。ところが、その翌年ぐらいから白人至上主義者グループが使う「White Lives Matter」というスローガンも目立つようになる。
現在、アメリカに存在する白人至上主義者グループは1000を超えると言われているが、筆者がアメリカで過ごした90年代から2000年代前半は、社会では見えない存在だった。なぜ近年、ことに2010年代に入り、彼らの存在が目立つようになったのだろうか。
6月26日に公開される『SKIN/スキン』は悪名高き白人至上主義者グループのリーダーが、グループを脱退し更生していく実話を映画化したものだ。
この映画に見られる差別、暴力、更生の道のりは、FBIとの取り決めで設定を変えている部分もあるが、驚くべきことに、そのほとんどが真実であるという。
本作を制作したのはイスラエル出身のユダヤ人であるガイ・ナティーヴ監督。ユダヤ人の彼がスキンヘッドのネオナチの物語を映画化したのはなぜなのか、そしてアメリカに巣食う白人至上主義の実態について、ナティーヴ監督に聞いた。
「ネオナチは90年代の残骸」と言われていた
ガイ・ナティーヴ監督が本作の映画化を決意したのは、2012年にブライオン・ワイドナーについての新聞記事を読んだことがきっかけだった。ブライオンはアメリカでも有名なレイシスト集団「ヴィンランダーズ」の共同創設者であったが、ひとりの女性と恋に落ち、集団を脱退することを決意。体中に刻まれたヘイトのタトゥーを除去するのに16カ月、計25回の壮絶な手術を受けた。
ナティーヴ監督はこれこそが、分断される今のアメリカに必要な物語だと感じたという。とはいえ、監督が映画化を決めたときはオバマ政権下。その頃のアメリカでは「分断」という言葉でさえ、あまり使われていなかったような気がするが……。
「私の祖父母4人ともホロコーストの生存者なんですが、祖父にブライオンの記事を見せたら、『これは世界が必要としている物語だ』と背中を押してくれたんです。しかし、その頃のアメリカはISISや中東のテロにだけに目が向いていて、企画を持ちかけたプロデューサーはみんな『ネオナチなんて90年代の残骸で、今では南西部にちょこっといるだけだろう?』と相手にもしてくれなかった。
実際は白人至上主義者のグループは至るところにあるのに、アメリカ人は自分の裏庭で何が起こっているのか知らないんです。そういった使命感から絶対にこの映画を作ろうと思いました」(ガイ・ナティーヴ監督、以下同)