『悪の偶像』より

「ポスト・ポン・ジュノ」が描く、韓国「超階級社会」の闇

一番弱い存在が、一番恐いかもしれない

韓国映画界はこれまで、猟奇的とも言えるセンセーショナルな映像表現を通して、人間の根源的な感情をあぶり出す犯罪映画を数多く輩出してきた。これら作品群は「コリアン・ノワール」と呼ばれ、ポン・ジュノ(『パラサイト 半地下の家族』)やナ・ホンジン(『チェイサー』『哭声/コクソン』)などの天才監督を育んだ。

6月26日に公開される『悪の偶像』は、『パラサイト』よりもダークな犯罪スリラーで、人間の業や社会の闇を浮き彫りにした傑作だ。ポン・ジュノやナ・ホンジンに続く才能として期待される本作のイ・スジン監督に、作品に込められた思い、そして「ポスト・パラサイト」の韓国映画界について聞いた。

イ・スジン監督
 

一番弱い存在こそが、すべてを覆すかもしれない

市議会議員ミョンフェ(ハン・ソッキュ)は、知事選挙に立候補しているなか、息子が飲酒運転中に人をひき逃げしてしまう。このひき逃げ事件をもみ消したミョンフェは、被害者の妻リョナ(チョン・ウヒ)が現場に居合わせたのになぜか行方不明になっていることを知り、彼女を見つけ出そうと奔走する。

一方、被害者の父ジュンシク(ソル・ギョング)もリョナを探し始める。そして、ミョンフェ、ジュンシクの2人の父親の運命は、リョナを通して交錯し、事態は思いもかけぬ方向へ進んでいく、というのが本作のあらすじだ。

主な登場人物であるミョンフェ、ジュンシク、リョナの3人それぞれの背景は、韓国の階級社会を映し出している。市議会議員のミョンフェは権力をもつエリート階級、街の小さな電気店を経営するジュンシクは労働者階級、リョナは中国からの不法移民者で性産業に従事する、何の権利ももたない階級だ。

本作では、社会的に一番弱い存在であるはずのリョナが、権力者のミョンフェにとって一番の脅威となっていく。これには監督のある思いが込められているという。

『悪の偶像』より

「市民権ももたぬ女性のリョナを一番怖い人物として観客に捉えてほしかったんです。彼女は社会の底辺にいるのに、権力者のミョンフェ、労働者のジュンシクよりもずっと恐ろしい。

つまり、社会的弱者が搾取されている社会状況を描きながらも、社会的弱者には階級社会を覆す力が実はあるんじゃないか、と観客に考えてほしかったんです」(イ・スジン監督、以下同)