通報を受けて宇都宮市がしたこと

認可外保育施設であっても、児童福祉法に基づいて運営されなければならない。児童福祉法59条では「立ち入り調査」などの指導監督権限が都道府県知事に与えられており、中核市である宇都宮市は59条の4に従ってその権限を負っている。さらに『認可外保育施設指導監督の指針』によれば「重大な事故が発生した場合、または利用者から苦情や相談が寄せられている場合等で、児童の処遇上の観点から施設に問題があると認められる場合」には、事前予告なしの「特別立ち入り調査」を実施することが適当である、とされている。「トイズ」に関して寄せられたこの2件の通報は、まさにこの条件にピッタリあう。ところが、なんと宇都宮市はわざわざ事前に久美子被告に通告を行った上で立ち入り調査に入ったのだ。

事前予告をしただけではない。立ち入り調査そのものも不十分なものであった。「トイズ」のビルは5階建であり、パンフレットやホームページにも5階までの使用が明記されていたというのに、立ち入り調査に入った市の職員は、1〜3階までの確認しか行わなかった。4、5階は自宅として使用している、という久美子被告の言葉を信じたからである。そのため「通常30〜40人の子どもがいる」という通報があったにもかかわらず、5人の子どもしか見当たらなかった。また、法令上備え付けておく必要がある職員に関する書類を確認しておらず、さらに「子どもたちに食事や飲み物が与えられていない」という通報の確認を行うために冷凍保存してあるはずの給食と献立の確認をするべきだが、それも行っていない。立ち入り調査はわずか30分ほどのものであったという。

これは当時の保育施設での実際の写真だ。通常30人~40人いると通報で言われていた子どもたちが、立ち入り検査のときには5人しかいなかったという。もしかしたら立ち入り検査をしなかった4階か5階に、この写真のようにされた子どもたちがたくさんいたのかもしれない。その現場を見ていたら、間違いなくそのままにされることはなかったはずだ 

いったい何のための立ち入り調査なのか、何のために『認可外保育施設指導監督指針』があり、何のために宇都宮市という自治体があり、保育課が存在し、その責任で指導監督が行われるのか。事件からわずか2ヵ月前に、これらの詳細な通報について事前予告無しの念入りな立ち入り調査が行われていれば、「トイズ」には閉鎖命令を出すことができたかもしれない。そうすれば愛美利ちゃんが命を落とすこともなかっただろう。他の子どもたちの命も同じように危険にさらされていた。改めて怒りを禁じ得ない。権限が与えられているにもかかわらず十分な立ち入り調査を行わなかった宇都宮市は誰に、何に忖度したのか。

この保育施設で出されていた「食事」の一例

また、児童虐待防止法が定義する「虐待」は家庭の中で起きるものに限られ、保育施設における「虐待」は傷害として警察の担当になる、という制度の問題も大きい。児童虐待防止法の適用になれば、裁判所の令状を受けてより権限の強い「臨検」を行うこともできたはずだ。これらは今後、同じような事件が起きないようにするためにも大きな課題となるだろう。