温泉旅館がサテライトオフィスに!?コロナ後を見据えた斬新な挑戦

嬉野と草津の若手経営者の戦略
山崎 まゆみ プロフィール
 

いまや草津温泉は、「1泊2食の宿は大切な日に泊まる。素泊まりの宿は日常遣い」という客層に変化しつつある。

「1泊2食のスタイルは記念日に利用するから、予算や希望に合わせて予め食事内容や時間を決めておきたいというニーズが強くなっています。 お客様は、これまで以上に『価値あるおもてなし』をお求めなのです」

この変化がさらに大きな変革をもたらすと、小林さんは説く。

「1泊2食の宿泊料金では宿泊代、食事とおもてなし、それぞれの単価が混ざっていましたが、素泊まりの宿泊代を明記することで、食事やもてなしの単価が見えてきます。すると、これまでの価格設定は安すぎるのではという疑問が出てきました。

また、街中の飲食店で混雑する中で夕食を摂ることを想像すると、予め用意されている旅館でのディナーの安心感が価値となります。

実際、これからの1泊2食の宿泊料金は1人当たり4000円~6000円高くするのが妥当ではないかと考えています。

宿泊業界の懸念事項は1泊2食の利用単価が上昇していないことです。上昇すれば収益性の改善に寄与でき、さらなるおもてなしや品質の向上につながります。その結果、お客様や従業員の満足度が向上していくのです。

コロナ禍により、お客様がゼロになったことで、新たな料金設定が可能になります。いまこそ1泊2食というシステムを生まれ変わらせるチャンスなんです

加えて、素泊まりや『イチアサ』が一般的になった時に、1泊2食を新しく感じる世代が出てくるでしょう」

草津温泉で供される料理一例

温泉の原点

日本の温泉の大革命への第一歩が踏み出されようとしている。

嬉野温泉旅館大村屋の北川社長は芸術家の創作の場を提供している。その有り様は、かつて日本の温泉旅館が文豪や芸術家のスポンサードをし、その作品が生まれた温泉地は文化的な価値が高まった戦前の昭和を思い起こさせる。

大村屋・北川社長

たとえば、石川県山中温泉の若旦那衆は北大路魯山人に工房を与え、作品を作らせ、夜な夜な魯山人と語り合ったという逸話がある。それゆえ山中温泉には魯山人の作品が数多く残っていて、いまでも温泉地のセールスポイントになっている

もしかしたら嬉野温泉でも同様のことが起きるかもしれない。

また草津温泉の小林社長が言う「日常遣いの素泊まり」には、日本古来の温泉の利用法である湯治場を連想した。

日常的にお湯に入り体調を整えることこそ、温泉の原点に他ならないからだ。

サテライトオフィスはいまの時代にあったスタイルではあるが、一連の取材を経て、私には温故知新という言葉が浮かんできた。