劇場再開後も問題は山積み。コロナ禍のハリウッドで起きていること

ノーラン最新作『TENET テネット』が7月末全米公開
宇野 維正 プロフィール

映画業界を揺るがす「大事件」

「劇場を救いたい」という1人の監督のある種のヒロイズムによって劇場公開にこぎつけようとしている『TENET テネット』と対極に位置するかたちで、パンデミックの渦中にアメリカで大きな話題を集めたのがユニバーサル・ピクチャーズのファミリー向けのアニメーション作品『トロールズ ミュージック★パワー』だ。

3月に全米各地で映画館の閉鎖が広まると、当時公開中だった『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 BIRDS OF PREY』や『透明人間』といったヒット作品は早々とPVOD(プレミアム・ビデオ・オン・デマンド。通常のレンタル配信よりも価格が高く設定されている)に放出されたが、『トロールズ ミュージック★パワー』は劇場公開前のメジャー大作としては初めて、北米公開予定日と同日の4月10日にPVODでのみリリースされた。

同作の配信されてから3週間の収益は推定1億ドルで、これは2016年に公開されたシリーズ前作『トロールズ』の同期間の興収(1億5370万ドル)の約65%の成績。数字だけを見るとかなりの減少だが、興収の約半分が劇場の取り分であることをふまえると、実は配給会社は劇場公開するのと同じかそれ以上の利益を得たことになる。

それだけでも映画業界を揺るがす大事件だったが、ユニバーサル・ピクチャーズの親会社NBCユニバーサルのCEOジェフ・シェルがウォールストリート・ジャーナルで「『トロールズ ミュージック★パワー』の成功は我々の期待を超えており、PVODの可能性を示している。全米の映画館が営業再開したら、今後は両方の形式で映画をリリースしていく予定だ」と語ると、劇場サイドは猛反発。全米最大規模のシネコンチェーンAMCシアターの会長アダム・アロンは「今後、米国、ヨーロッパ、中東のすべてのAMCチェーンでユニバーサル作品を上映しない」とユニバーサル・ピクチャーズに通告した。当初の感情的な対立は解消されたとのことだが、両社は現在も協議を続けている。

 

ノーランの願い

今回のパンデミックは映画業界全体にかつてない深刻な影響を及ぼしているが、特に劇場サイドは壊滅的なダメージを受けていて、AMCシアターに関しては破産危機にあることや、Amazonによる買収の噂が盛んに報じられていた。

この騒動を受けたモーニング・コンサルトの調査によると、観客の40%はユニバーサル・ピクチャーズの「劇場と配信で新作を同時公開」という方針を支持。ポップコーンとラージサイズのコカコーラとスクリーンに向けての歓声――劇場での映画体験が長年そのライフスタイルと深く結びついてきたアメリカの観客でさえそうなのだから、2010年代以降のグローバル・マーケットの成長を牽引してきた中国をはじめとする映画興行新興国においては、新作映画の鑑賞習慣の軸があっという間に配信へと切り替わってしまう可能性もあるだろう(ちなみに、6月中旬時点で中国全土の劇場はまだ閉鎖されたままで、先行きが見えない状況にある)。