「人種は存在しない、あるのはレイシズムだ」という重要な考え方

遺伝学では「人種」は否定されている
磯 直樹 プロフィール

不平等の原因として「人種」を強調しすぎると、レイシズムの引き起こす問題を捉え損ね、社会問題をいっそう複雑にしてしまう。「人種」間平等を唱えるのは、危険である。例えば1919年、日本政府は人種的差別撤廃提案(Racial Equality Proposal)を国際連盟に提示した。これは当時としては重要な問題提起であったが、人間を「人種」に分けた上で「人種」間の平等を唱えるという点で、レイシズムに変わりはない。

仮に「人種」区分を認めるとして、「人種」の間の平等が重視されると、同じ「人種」とされる人びとの間の不平等が相対的に軽視されることになる。ホックシールドの『壁の向こうの住人たち』やゲストの『新たなマイノリティの誕生』では、トランプ大統領を支持するアメリカの「白人」労働者たちが取り上げられている。アメリカにおいて「黒人」を含む従来の「マイノリティ」が相対的に平等な扱いを受けるようになり、かれらは自らが不当な扱いを受けていると感じている。

〔PHOTO〕Gettyimages
 

「白人」と「黒人」を比べたときに前者の方が概して恵まれていることは事実だとしても、前者の中には富裕層もいれば貧困層もいる。「白人」の貧困層や庶民からすれば、「白人の特権」を批判されても、かれらよりも豊かな「黒人」がいることの方が目につくのである。これは主観的な問題ではあるが、同じ「人種」内にも多大な不平等があることは看過できない事実である。

『白人の特権』(未邦訳)を著したイギリスの社会学者カルワント・ボパールは、インターセクショナリティの重要性を説く(K. Bhopal, 2018, White Privilege: The Myth of a Post-Racial Society, pp. 47-64)。「人種」やジェンダー、「階級」などの様々なアイデンティティが重なり合い、交差し合うことで、個人は各々に固有の差別や抑圧の経験を被る。このことを捉えようとするアプロ―チが、インターセクショナリティである。

「白人の特権」も、「白人」という属性だけでなく、他の様々な属性やアイデンティティと「人種」がどのように反応し合っているのかを分析してこそ、誰にとってのどのような「特権」なのかが明らかにできる。