「人種は存在しない、あるのはレイシズムだ」という重要な考え方

遺伝学では「人種」は否定されている
磯 直樹 プロフィール

2020年版の質問項目を見ると、質問番号8で世帯構成員について「ヒスパニック、ラティーノ、スペイン系の出自ですか」と尋ねている。続いて質問番号9で「人種は何ですか」と尋ねており、「白人」、「黒人ないしはアフリカン・アメリカン」、「アメリカン・インディアンないしはアラスカ・ネイティヴ」、さらに「中国系」や「日系」などの選択肢が並ぶ。

このように、米国では人びとが何となく「人種」区分をしているというだけでなく、国勢調査によって公式に「人種」が分類されており、「人種」に客観的なリアリティが感じられる。

こうした統計データを用い、社会学や人口学の論文でも「人種」概念が当たり前のように用いられている。ただし、これが社会的構築物であることは認識されている。

一方で、米国の社会学や人口学における「人種」概念の使用については、高名な人口学者であるチャールズ・ハーシュマンによって疑義が唱えられている(Charles Hirschman, 2014, “Origins and Demise of the Concept of Race”, Population and Development Review, Vol. 30, No. 3, pp. 385-415.)。彼の主張は、概ね以下の通りである。

人種概念はこの4世紀ほどの間に形成されたものであり、19世紀後半から20世紀前半までは「イデオロギー的」であり、20世紀後半から科学的知識との関わりが深くなっていった。科学的知識はしかし、20世紀前半までに形成された「人種」カテゴリーを再生産していき、人びとの日常的認識だけでなく、(国勢調査を含む)公共政策や学術研究においてもレイシズムが生き延びることになった。

現在でも「人種」を実体化する言説はメディアにも学術界にも見られるが、「人種」にはレイシズム以外にその根拠となる概念的基盤がない。社会的カテゴリーとしての「人種」には、論理的基盤がない。だから、「人種」概念は用いるべきではない。代わりに、エスニシティ概念を用いるべきである。

以上がハーシュマンの主張である。米国の社会学や人口学だけでなく、医学においても彼のような立場は主流ではない。しかし、遺伝学を中心に「人種」概念の科学的根拠は否定されており、ハーシュマンの議論は補強することができる。

 

「人種」の存在を否定する遺伝学

2019年3月の朝日新聞の記事でも報じられたが、2018年、米国人類遺伝学会(ASHG)は「人種」概念を用いないよう声明を出した。

この声明では「白人の優越性」を主張することに警鐘を鳴らし、生物種としての人類に下位分類はできず、遺伝的に人類を異なる集団に隔てることはできないと述べられている。加えて、「人種」とは社会的構築物であることが強調されている。