3月2日からの休校要請の影響で、全国でも長いところでは2ヵ月の間休校だったところがある。世界中多くの国で新型コロナ感染拡大予防で学校が休校となり、オンラインによる指導や双方向コミュニケーションが見られた。しかし、例えばオランダでは公の学校でも休校から3日後には双方向のオンライン教育が始まったのに対し、日本ではこの2ヵ月の間に一切オンライン指導がなかった学校がほとんどだったのである。

その理由の一つに、「機器を持っていない家庭があること」も挙げられていた。現在GIGAスクール構想で一人1台PCを持たせるように進めていたとはいえ、すぐに用意するのは困難。「だからできない」という話が多かったのだ。

しかし、公教育とは異なるが、緊急事態宣言の直後からオンラインでの子どもたちとのつながりや子どもたちの指導を続けた「無料塾」があるという。ジャーナリストのおおたとしまささんに伝えてもらおう。

塾に通えない子どもたちの学習の場

主に経済的な理由で塾に通うことができない子どもたちの進学をサポートする「無料塾」の取り組みが全国に広がっている。2014年4月から中野区で「中野よもぎ塾」を運営する大西桃子さんは『無料塾に今、できること』という書籍の中心メンバーでもある。中野よもぎ塾には私も何度か足を運んでいる。

普段であれば、毎週日曜日の18時から3時間、中野区の公民館のような建物の一室を利用して指導が行われる。対象は中1〜3の約20人。無料とはいえ、指導は手厚い。1対1の完全マンツーマンなのだ。指導するのは年齢も職業もバラバラの「サポーター」。当然ボランティアである。

代表の大西さんがそれぞれの子どもたちの学習状況や家庭状況そして心理状況を把握しており、毎回の指導内容を決める。指導内容や子どもの性格や状況を勘案して、サポーターのなかから指導に当たる担当を割り振る。大西さんのこの采配が中野よもぎ塾の要である。

1対1の指導とはいえ、心理的に学習に向き合えていない子どもも多い。しかし中野よもぎ塾のサポーターたちは、根気よく彼らに寄り添う。決して無理強いはしない。叱責やプレッシャーや過度な期待が、子どもたちのやる気の芽を摘み取ってしまうことを経験上よく知っているからだ。

一堂に集まっての指導は週1回のみだが、それ以外の日にも可能な範囲でサポーターが学習の相談に乗る。ただし専用の教室はないので、大西さんの自宅の一室やファミレスのテーブルが教室代わりになる。ファミレスのドリンクバーの費用も中野よもぎ塾が負担する。

私が見学に行ったときには、ちょうど近隣のお弁当屋さんからお弁当の差し入れがあった。「お金はありませんが、この塾とその生徒たちは、本当に恵まれていると思います。これだけ多くの大人の善意に支えられているのですから」と大西さん。

中野よもぎ塾のコロナ前の授業風景。2018年撮影 写真提供/おおたとしまさ

塾生の約7割は母子家庭で暮らしている。生活保護を受けるほどではないが、きょうだい全員を一般的な進学塾に通わせるほどの余裕はない家庭が多い。かといって母親は仕事で忙しく、子どもの勉強を見てやれない。学校の授業に一度ついていけなくなると、自力で追いつくのは難しい。

見かねた学校の先生が自分の生徒を中野よもぎ塾に連れてきてくれたこともある。自分の教え子の「学習の遅れ」に気付いていながら、自分では手の施しようがなく、学校の先生自ら無料塾の支援を求めたのである。誠実な先生だと思う。しかしこの現実こそが現在の公教育の限界を物語っている。