『陽の鳥』 著者:樹林伸

希代のヒットメーカーが挑むメディカル・エンタテインメントを連続公開 VOL.2

 有基は真新しい革のキーケースに入った車のキーを、数矢の目の前にぶら下げて、
「これ、自動車の鍵でしょ? この本に載ってるやつだよね」 

 今度はもう一方の手に持ったマツダ・ロードスターのカタログを、鬼の首でもとったように掲げてみせる。

「運転は好きじゃないから自動車はいらないなんて言ってたくせに、二人乗りの自動車なんか買っちゃってさ。ぜったい彼女だよ、そうでしょ、数矢兄ちゃん」「そんなんじゃないって。こら、鍵返せ」 

 食べかけのサンドイッチをテーブルに投げ出して、有基を追いかける。小柄ですばしっこい有基はテーブルの下をくぐって玄関のほうに逃げながら、
「だめ。本当のことを言わないと、この鍵持って学校に行っちゃうぞ」 
と、愉快そうに笑う。

「わかった、白状する。だから返してくれよ、有基君」

 両手をあげて降参のポーズでゆっくり近づくと、有基はいきなり抱きついてきて数矢の顔を得意気に見上げ、
「やっぱり彼女だね。美人なの?」 

 有基の手から車の鍵をとり返すと、今度は数矢が得意気に胸を張った。

「ああ、もちろん。美人でその上・・・」 
関東大学付属病院の副院長の娘で、お金持ちのお嬢さんなんだ、と言おうとして口ごもった。 

 いけない。そんな理由でつきあい始めたと思われては、おませな上に正義感の強い有基に軽蔑されてしまう。 

 とっさに、でまかせを口に出す。

「その上、子供が大好きなんだよ」
「ほんと? じゃあ三人でドライブに行けるね。僕とその人と数矢兄ちゃんと」
「いや、それは無理だよ。新しく買った車は二人乗りのオープンカーだから」
「そんなの平気だよ、僕はちっちゃいんだから」