『陽の鳥』 著者:樹林伸

希代のヒットメーカーが挑むメディカル・エンタテインメントを連続公開 VOL.2

 有基は通っている私立小学校が遠いこともあって、午前六時半から七時までの早朝に毎日のように訪ねてくる。傍若無人そのもので数矢の都合などどこ吹く風、コンビニに行っているすきに上がり込んでいるくらいはおとなしいほうだった。 

 夜風が気持ちいい秋口にバルコニーの窓を大きく開けたままで寝ていたら、数矢の部屋の前に伸びてきている隣の空き地の楠くすのきの枝づたいにバルコニーから忍び込んで、目覚ましが鳴る前に上に乗ってきたこともあった。 

 さすがの数矢も危ないからよせと説教めいた言い方をしたが、有基はどこ吹く風で、危ないのはそっちでいつか泥棒に入られるから、もう窓を開けたまま寝るのはやめたほうがいいと逆にたしなめられた。 

『陽の鳥』
著者:樹林伸
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 もっとも、部屋の前まで伸びてきている細い楠の枝をつたってバルコニーから侵入できるのは、せいぜいが小学生止まりなのだが。 

 有基はいつものようにジュースを飲みながら窓際のソファに寝ころんで、数矢のルービックキューブを勝手にいじりだす。朝食の用意をしながら横目で見ると、数矢でも六面すべてを合わせるには一〇分近くかかるこのパズルを、彼はものの三〇秒ですでに半分まで合わせてしまっていた。 

 有基は、IQが180以上もある天才児童なのだ。なるべく普通の子供として育てたいという父親の方針で、家庭での数学教育以外は特に英才教育を受けるでもなく渋谷区にある私立小学校に通っているが、パズルの類は何をやらせてもずば抜けていて、ルービックキューブなどは二~三分で六面を合わせてしまう。 

 この朝の有基は絶好調で、わずか一分半でキューブを完成させると、退屈になったのか別の『おもちゃ』を探して勝手にリビングボードを漁りはじめた。いつものことだし見つけられて困るようなものも置いていないので、数矢は気にせず好きにさせて朝食を摂っていた。

「わあっ」 
ふいに有基が奇声を上げた。飛び掛かりそうな勢いで食卓に向かってきて、

「数矢兄ちゃん、彼女できたでしょ」 
唐突な問いかけに、パンを喉に詰まらせそうになって咳き込む。

「なに言い出すんだよ、有基君」
「だってほら、これ」