宇宙誕生後38万年も鳴り響いていた「ビッグバンが奏でる音楽」とは

51オクターブ下の「超」重低音
杉山 直 プロフィール

じつはそうではない。最先端物理学からの帰結として、現実の宇宙に、かつて本当に「音楽」が鳴り響いていたことが明らかになったのである。

今から138億年前のこと、宇宙が誕生してから38万年が経つまでの間ずっと、宇宙には音が満ち溢れていたのだ。

宇宙という巨大な楽器が奏でる音は?

音が鳴るためには2つの存在が必須である。音を響かせる楽器と、音を伝える物質、すなわち媒質だ。

宇宙に鳴り響いていた音、その楽器は、宇宙自身である。宇宙が音を生み出し、その中に鳴り響いていたのだ。きわめて巨大な楽器である。時間とともに楽器はサイズを拡大し、38万年の時代には、とうとう17万光年もの大きさにまでなっていたという。間違いなく史上最大の楽器だ。

では、この楽器が出していた音とはどのようなものだったのだろうか。

音程は、楽器のサイズが決める。よく知られているように、大きな楽器からは低い音が、小さな楽器からは高い音が出るのである。

高い音を出す楽器の代表として、小学校の音楽の授業で使われるソプラノ・リコーダーがあるが、そのサイズが33cmである。一方、菅が巻いているので分かりにくいが、低音を受け持つ金管楽器チューバの中でも最も音域の低いB♭チューバは9.6mにもなるという。一番低い音はピアノの真ん中のドの3オクターブ以上も下のソの音だ。

【写真】低域を担うチューバの管長は?
  最も音域の低いB♭チューバは、管の長さが9.6mにもなる photo by gettyimages

では、宇宙という名の楽器、そのサイズ17万光年というのはどんな低音なのだろうか。なんと、ピアノの真ん中のドの音の51オクターブ下のファ♯だという。人間の耳では到底聞くことはかなわない。

音を伝えたのはプラズマ

次に、音が鳴るために必要な2つ目の存在、宇宙で音を伝えていた媒質は、どのようなものだったのだろうか。

宇宙の空間というと、通常、真っ暗で「空っぽ」な空間をイメージするだろう。空っぽで媒質が存在しなければ、音が伝わることはできない。宇宙飛行士がヘルメットをとって大声で叫んでも、隣の飛行士には声は伝わらないのである。

しかし、誕生から38万年の時代までは、宇宙はそんな空っぽで真っ暗というイメージとはまったく異なっていた。灼熱の火の玉のような存在だったのだ。ビッグバンである。ビッグバンの時代には、宇宙全体がその温度を反映して明るく光り輝いていた。ビッグバンの最後の時期である38万年には、空はどこもオレンジ色で輝いていたのだ。

【写真】宇宙は光り輝いていた
  灼熱の火の玉のような宇宙は、その温度を反映して明るく光り輝いていた photo by gettyimages

ビッグバンには、光が満ちあふれているとともに、物質も大量に存在していた。ただし、あまりに熱かったので、原子は原子核と電子にバラバラに分かれていた。光が電子を原子から叩き出すからだ。

結果として、この時代には、電気を帯びた気体、いわゆるプラズマが宇宙には満ち満ちていた。気体なので、音が伝わるための媒質として働く。38万年の時代まで、宇宙という楽器が紡ぎ出す音は、このプラズマが伝えたのである。