"Black Lives Matter"どう日本語に訳すかという本質的な問い

そこから見えることがたくさんある
矢口 祐人 プロフィール

"Matter"が示す切迫感

【Matter】

Matterが動詞として使われる場合、日本語では「重要である」と訳される。しかし、より一般的な「重要」を指すimportantと何が違うのだろう。なぜBlack Lives are Importantとはならないのだろう。

Matterには「誰か、何かに関係するから重要」というニュアンスがある。 その意味で、matterの重要性はimportantより主観的で、切迫感がある。

Matterの主体を明確にするには前置詞のtoを用い、たとえばIt matters to meなどと言う(「それは私に関係があるから重要だ」)。Black Lives Matterの場合、後ろにTo UsやTo Americansが省略されていると考えるべきだろう。つまりBlack Livesはアメリカに住む我々全員と深く関わるから、大事だという意味合いである。

 

「は」か「も」か

ここまでBlack/Lives/Matterについて考えてきたが、「黒人」「命」「大事」は訳語としてはおおむね妥当だろう(たとえば「命」を「生活」としてしまえば、実際に殺された人びとを記憶にとどめるという意味合いが薄れてしまう)。とはいえ、どれもニュアンスを完璧に伝えているわけではない。背景にある歴史的、社会的意味を補って理解する必要がある

最後に残されるのは、「は」か「も」のどちらかという問題である。

Black Lives Matterを単純に訳せば、「も」が入る余地はない。Black Lives Also Matterなどであれば別だが、「も」に相当する言葉はそもそも存在しない。だから、普通であれば「は」が正しい。日本の学校の英語テストで「も」と訳せば、減点対象にすらなるだろう。

ただ、朝日新聞などが敢えて「は」を「も」としているのは、Black Lives Matterの運動を観察したうえで、そちらの方が正しいと判断したからだろう。翻訳は単に言葉を置きかえる作業ではなく、読み手が理解できるような文脈に言語を書き換える作業だ。「も」とするのは、日本の人びとにわかりやすくBlack Lives Matterを説明する解釈行為である。