ニューヨークの路上に貼られたBlack Lives Matterの文字〔PHOTO〕Gettyimages

"Black Lives Matter"どう日本語に訳すかという本質的な問い

そこから見えることがたくさんある

アメリカ合衆国ミネソタ州でジョージ・フロイド氏が警官により殺害されたことを契機に、アメリカ中でBlack Lives Matterの運動が激化している。その影響は世界各地に広まっていて、日本でも盛んにメディアで取り上げられている。

ところで、Black Lives Matterを日本語に訳すとどうなるだろう。

ネット上で調べてみたところ、大半は「黒人の命も大切」、あるいは「黒人の命は大切」となっている。主要メディアについては、NHKと朝日新聞が「黒人の命も大切」としており、読売、毎日、日経、産経新聞は「黒人の命は大切」と訳しているようだ(6月17日時点)。

Black Lives Matterは今年始まった運動ではない。2013年以降、アメリカでは継続的に続いている。しかし定訳がいまだに日本の主要メディアの間でも固まっていないことが示しているように、たった三つの言葉が並ぶこのフレーズは、日本社会ではなかなかわかりにくいものであるようだ。それはなぜなのか。アメリカ研究をしながら、長年英語教育に関わってきた教員として考えてみたい。

まず、それぞれの言葉を考えてみよう。

ブルクッリンで行われたデモ〔PHOTO〕Gettyimages
 

"Black"の背後にある歴史

【Black】

言うまでもなく、黒を示す形容詞であるが、アメリカではBlackを人に使うときは「黒人」を指すのが一般的である。

ただ、Blackとは実際には誰なのだろう。「黒人」とはいかに定義されるのか。

アメリカの人種感覚は日本ではなかなか理解しづらい。一口に「黒人」と言っても、肌の色はさまざまである。「肌が黒い」からといって「黒人」であるとは限らない。そもそも「黒人」は科学的に明確に定義できるものではないし、今日のアメリカでは法的な定義があるわけでもない。