IUCNによる絶滅リスクの評価
IPBESの見積もりでは、IUCN(国際自然保護連合)の統計が用いられました。
IUCNは、個々の種(記載種)がどの程度絶滅に近づいているかを調べ、独自の定量基準を用いた絶滅危惧種(図2)の指定を行っています。そして、その結果をレッドリストにまとめています。2020年現在までに、約10万種に対して絶滅リスクの評価を行ってきました。

IPBESはレッドリストを参考に、動植物の種の何パーセントが絶滅危惧種なのか調べました。その結果、評価を受けた種の約25パーセントが絶滅危惧種であることを明らかにしました。
IPBESは25パーセントという絶滅危惧種の割合をもとにして、100万種という結論を導いたのです。しかし、これではまったく釈然としません。
先ほど示した通り、現在までに記載された動植物の種数は161万種程度です。そして、161万種の25パーセントは40万種程度です。40万種は途方もなく大きな数ですが、IPBESが発表した100万種には遠く及びません。なぜ計算が合わないのでしょうか。
未発見の動植物の数
実は、IPBESが動植物の全体の種数として用いたのは、これまでに記載された種の数ではありませんでした。つまり、まだ記載されていない種まで含めた、「きっとこれだけの種が地球上にいるはずだ」という数を用いたのです。
未記載の動植物の種数を用いるには、まだ見つかっていない種や、存在は知られているけれど名前が付けられていない種がどれだけいるのか推定しなければなりません。これは難問です。推定の方法を考えるだけで、途方に暮れてしまいそうです。
しかし2011年、この難問に対して、信ぴょう性のある答えが示されました。ハワイで生物学を教えるモーラらにより、もっともらしい推定値が発表されたのです(モーラらの手法を理解するには、生物分類学と統計学の深い知識が必要なので、ここでは結論だけを紹介します。図3)。

モーラらの推定によれば、地球上には動物が約777万種、植物が約30万種、合わせて807万種もいるようです。もしこの数値が正しいとすれば、植物は地球上にいるはずの97パーセントの種が記載されているけれども、動物に至っては、わずか17パーセントしか記載されていないということになります。つまり、地球上の動物は、名前さえ付いていない種がほとんどなのです。
IPBESは、モーラらによる動植物の推定種数を用いて絶滅危惧種の数を見積もりました。
しかし、807万種の25パーセントならば200万種くらいです。まだ計算が合いません。どうしてでしょうか?