物理的にありえない…江川卓が「本物の怪物」になった1981年の記憶

それでも沢村賞は獲れなかった
週刊現代 プロフィール

「賞に値しない人格」

江川は時に、打席に立った相手投手に「本気のボール」を見せつけ、心理戦に誘うこともあった。元中日・小松辰雄が言う。

「江川さんの球を打席で見ると、本当に浮き上がってくるように見えるんです。それこそ、そのまま顎の下をえぐられるような感じさえ覚えた。こっちも同じ速球派ですから、あれがどれだけすごい球かはすぐわかる。『これは簡単には打てない。俺が1点でもやったらチームは負けてしまう』と、精神的に追い込まれていく。彼の思うツボです」

江川は後半戦で11試合登板、7完投8連勝という離れ業をやってのける。江川(20勝)、西本(18勝)というWエースの大車輪の活躍で、巨人は見事、日本シリーズへの進出を決めた。

そうして、セ・リーグ全日程が終了した10月14日、満を持して沢村賞の選考委員会が開かれる。当時の選考は、記者クラブに所属する各社の運動部長の投票によって決められていた。

沢村賞は、投手5冠を達成し、チームを優勝に導いた江川以外には考えられない。江川本人を含め、誰もが、そう考えていた。ところが、委員会が発表した受賞者は、まさかの西本だった。

江川の受賞の瞬間を伝えるために用意された記者会見場は、騒然となる。「同じチームの西本が獲ったんだから、いいじゃないですか」

江川は憮然として言い放ち、席を立った。選考委員会は、江川を外した理由を「人格が沢村賞に値しないから」と切って捨てた。

当時、クラブに所属していた元記者が言う。