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オンライン会議で思わぬトラブルを防ぐ秘訣は、演劇にある

シアトリカル・アプローチとは何か②
アフターコロナの時代は、限られた情報の中でコミュニケーションをせざるを得ず、ミスコミュニケーションの発生率は高まります。思わぬトラブルを防ぐためには「シアトリカル・アプローチ」が重要であると、株式会社トビラボ代表の広瀬彩さんは述べます。一度身に着けると質の高いコミュニケーションができるというその方法とは具体的にどのようなものでしょうか?

第1回:普及するオンライン会議でストレスを抱えてしまう最大の原因とは?

即興での対応も可能に

コミュニケーションを円滑に行うためのアプローチには、論理的なストーリーの構成方法、話を傾聴する方法、明快な発語の訓練などさまざまなものがあります。

「シアトリカル・アプローチ」は、演劇界で蓄積された「パースペクティブ・テイキング」能力の向上に資する訓練法を活用するアプローチです。

演劇界で俳優の役作りの基盤となっているのは、スタニスラフスキーの演技システムです。コンスタンチン・スタニスラフスキー(1863~1938)は、ロシアの俳優兼演出家で、独裁的な演出をするのではなく、俳優たちとテーブルを囲んで討論していく中で演劇を作っていきました。

図表3は、彼が俳優に投げかけた9つの質問で、俳優が役を演じきるために理解しておくべきことがらです。これらは必ずしも台本に書いてあるわけではないので、台本の行間を読んでイメージしていく必要があります。

俳優は、台本を読むだけでなく、可能であれば役が生きた場所を訪れたり、役が使ったであろう道具を触ったりして、イメージを明確にしていきます。

第1の質問の「私は誰か」も、たんに名前や肩書を答えるだけではなく、どこで生まれ、どんな人生を送ってきたのか、誰からどんな影響を受けてきたのかといった問いにも答えていきます。

こうした準備を重ねていくと、役の人物がリアリティをもって俳優の中に立ち現れてきます。

その人物として見、聞き、話し、考えられるようになり、即興での対応も可能になります。たとえ相手役がセリフを間違えたとしても、その状況に合った、台本にはない受け答えができるようになるわけです。

 

演劇がビジネスに資する

欧米のビジネスパーソンは、「シアトリカル・アプローチ」という言葉は知らなくても、演劇がビジネスに資することは理解しています。

欧米のビジネススクールでは、コミュニケーションスキルやリーダーシップスキルの向上にシアトリカル・アプローチの授業があります。

MITスローンビジネススクールの “EnActing Leadership: Shakespeare and performance” という授業では、履修者は実際にマクベスを演じるようです。バージニア大学ダーデンビジネススクールの “Leadership & Theater: Ethics, Innovation & Creativity”という授業でも、演劇の分析から始まり、短い芝居の実技を重ね、やや長めの芝居を演じるという授業構成になっています。

ケリー・レオナルド、トム・ヨートン著『なぜ一流の経営者は即興コメディを学ぶのか』という本には、劇団「セカンドシティ」が行うビジネス教育について記されています。

セカンドシティの研修は、基本的には即興劇(インプロビゼーション)が中心になっていて、モトローラ、日産、グーグル、ナイキ、マクドナルドなどの企業がセカンドシティの研修を受けていると書かれています。

私が演劇を学んだ、英国王立演劇アカデミーでも、ビジネスパーソン向けの企業研修が頻繁に行われ、大きな収入源になっていました。

実は、青山学院大学ビジネススクールでも、昨年度から「ビジネスへの演劇アプローチ」という授業が開講され、私が講師を務めています。履修希望者が多く、MBA生もシアトリカル・アプローチの効果を認識してくれているようです。

今年はオンラインでの授業となっていますが、オンラインだからこそ重要な要素に焦点をあててプログラムを構成しています。