ワクチンの存在さえ
知らない保護者も増えている

高橋さんは、産婦人科診療のかたわら、小・中・高校、大学生に性教育の講演を行ってきた。

「集団で一斉に7割が打った年代の若者に、『どうやってHPVワクチン接種を決めたのか』を聞いたところ、打った人は親が決めた。打たなかった人も親が決めたと話していました。全部、医学生達の話です。中学生や高校生が自分で決めるのは難しいのでしょう」

一方、「2019年の性教育講演に集まったある高校の保護者20名に、HPVワクチンについて尋ねたところ、知っていると答えたのはたった1名でした。自治体からのお知らせが届かなくなって7年が経過し、今では『ワクチンの存在さえ知らなかった』という保護者が増えているのです。そして、当事者の子が大学生になってHPVワクチンのことを学ぶと、『打ちたかった』という声が上がります。

まずは大人が学んで、子どもと一緒にHPVワクチンのことを検討する機会を持って欲しい。不安に思うなら、かかりつけの産婦人科やワクチン接種を行っている医療機関で相談をしてみてもいいと思います。日本産婦人科学会が情報提供をしています。子どもたちに、正しい情報を与え、選択の機会を与えること、これは大人の責任です」

高橋さん自身は、自費で中学生の息子に「HPVワクチン(9価ワクチン)」を接種した。

ちなみにHPVワクチンは、子宮頸がんだけでなく、中咽頭がん、陰茎がん、肛門がん、膣がん、外陰がんなどの6つのがんを防ぐことが明らかになっており、世界では77か国以上で男子にも接種されている

「産婦人科医だから、そんなことができたのだろうと思われるかもしれません。確かに、自分にはHPVワクチンが日本で発売された日に打ちました。子宮頸がんで亡くなる方を大勢看取ってきたからです。でも子どもについては、そうではありませんでした。私の背中を押してくれたのは、実はママ友なのです。

あるとき、たまたま雑談でHPVワクチンのことを話していたら『うちの息子にも打ちたいと思う。お願いできる?』と頼まれたのです。過去に、副反応のことがメディアでセンセーショナルに取り上げられたこともあります。だから正直、この話題は引かれてしまうのでは?とちょっと怖かったのですが、そんなことはありませんでした。

男子は公的費用での接種がありませんが、それでもママ友は打ちたいと。熱意に動かされ『うちの息子にも話してみる。同意すれば一緒に接種しよう』と話が進んだのです。息子にHPVワクチンのことを説明する際には『6つのがんを防げるよ』と話しました。すると『それなら、打ちたい』と即答。打つと決めたのは息子自身でした」

今回の署名活動では、対象年齢を外れた女子のキャッチアップ接種を求めているが、今後は、「HPVワクチンを男子にも公費で接種できるように、求めていきたい」という。

海外では、女性だけでなく男性の接種も広がっている。ここまで接種自体が遅れている国は珍しい。photo/iStock