アメリカでは香港のような抗議活動による社会分裂の激化は起きるのだろうか。
その答えを考えるためには、まずはアメリカにおいて「人種差別は望ましくない」という主張が香港においての「民主化は必須」という主張に比べてどの程度普遍的なものかを検討する必要があるだろう。
デモの背景となる「前提」を社会全体で共有できていなければ、人々は抗議活動に異なるストーリーを見出していく。そして、そのストーリーに合う情報ばかりを受け入れるようになりさらに分裂していく。
2019年の香港の区議会選挙では小選挙区制の性質上議席数の上では民主派が大勝したが、民主派の得票率は6割程度で、建制派(体制派)に投票したのはおよそ4割だった。
明報によれば、2019年9月に行った世論調査において、政治改革・普通選挙が必要と答えたのは、民主派では9割以上を占めていた。一方で、建制派はおよそ7割が政治改革・普通選挙は不必要と回答した。
したがって香港の民主化は必要ないと考えている人は少なくなく、そのような人が体制に近い権力を握る人にも多いために「現在の香港に民主化は必要ない」と言ったことで社会全体に糾弾されるわけではない。
このような香港の状況は日本の政治勢力で民主主義の必要性を否定するのが極端な勢力に限られることと比較すると対照的であると言える。このように社会全体で同じ前提を共有しないことも香港社会の分裂を引き起こした一つの原因と考えられるだろう。