一緒にいるとしてしまう期待をせずに済む

離れてみたら、夫の言動に振り回されずにすむので、気持ちは楽になった。病気だとわかっていても、一緒にいればつい夫として期待してしまう。応えてもらえなければ、頭にくるし、傷つきもする。でも、いないならいないで、諦めがつく。

「私って、もともとがスーパーポジティブ(笑)。夫のために悩んだり苦しんだりする時間がもったいない、せっかくだから自分のために時間を使おうと、別居して半年後にはビジネススクールに通い始めたんです。そうしたら、素敵な人とたくさん知り合えて。自分は自分で楽しくやろうと、前向きな気持ちになれました」
 
離婚はせずに別居を続ける。夫婦として不自然な選択であることは承知している。でも、千紗さんは当面、このスタイルでやっていくつもりだ。

「一緒に暮らすのは、私が精神的に保たないから無理。でも、離婚をしたいとは思わない。だって、離婚することの方がパワーを使うし、現状に満足していますから。それに、離婚していないからこそ、私と子どもたちはこの家に住み続けられているとも言えるんです」

千紗さん曰く、「いま住んでいるマンションは、子育てをするのに最高の立地」だ。環境もいいし、子どもが小さいころから住んでいるので、近所にママ友もたくさんいる。もし正式に離婚するとなったら、財産分与などで家を売る必要が出てくるかもしれない。それは避けたい。

「あれこれ考えると、いま離婚するメリットは一つもないんです。少なくとも子どもが大きくなるまでは、これがベストなスタイルだと思っています」
では、子どもが巣立ったら? 千紗さんは果たして、どんな選択をするのだろうか。

-AD-

やっぱりこの人のこと嫌いじゃないな

実は千紗さん自身が、母子家庭育ち。3歳のときに親が離婚した。20歳で母親が再婚。「いい人を見つけてくれた」と、千紗さんは思っている。
「そのとき母は46歳。今の私の5年後ですよね。母の姿を見ても、相手を尊敬し合って、穏やかに暮らせる人と一緒になるのっていいな、と思います。だから私も、第二の人生を考えないわけじゃないんです」

でも、と千紗さんは言葉を続けた。

「もしかしたら、また夫と一緒に暮らす日が来るかもしれない。最近、病気が落ち着いてきているのもあって、ああ、この人のことやっぱり嫌いじゃないな、と思うことがあるんです。私にはない穏やかさを子どもたちが持っていて、それは夫の資質を受け継いでいるおかげだな、って……」

数年後、もう一度、千紗さんの話を聞いてみたい。

千紗さんが苦しんできた夫の行動の原因は「病気」。でも「病気だから、苦しいことも耐えて一緒に暮らさなければならない」ではなく、「子どもも親も穏やかで暮らす」ために、病気の影響が及ばないけれど子育てのできる距離に離れることを選んだ。なにより、夫の良さを理解し、感謝の心がある。その上でいま最善の生活を選んでいるのだ Photo by iStock
上條まゆみさん連載「子どものいる離婚」今までの記事はこちら