貧乏旅をしながら約2年をかけてほぼ世界一周した様子を綴ったエッセイ『ブラを捨て旅に出よう』の著者・歩りえこさんに、著書では綴られていないエピソードを披露してもらっているFRaU web連載「世界94カ国で出会った男たち」(毎月2回更新)。

第10話となる今回は、バーレーン王国で親切に観光案内をしてくれて、居候までさせてくれた男友達とのエピソードをお届けします。歩さんに「こんな男性も世の中に存在するんだな」と思わせた彼。一体どんな人なのか? また、今回の旅を終えて歩さんが改めて感じたことも綴っていただきました。

歩さんの今までの連載はこちら▶︎

さすがF1の有名国、空港には…

今から7年前、31歳の頃、アラブ首長国連邦を旅したついでにLCCを利用してバーレーン王国を訪れてみることにした。観光地としてマイナーな国だがどうしても観たいものがあったからだ。それは……F1!

当時オイルマネーで潤うバーレーン王国はF1の誘致に成功。毎年、F1シーズンになると外国からF1ファンや世界的セレブが訪れることで有名になった

広大なF1会場。写真提供/歩りえこ

早速ネットでF1観戦チケットの価格を調べてみると、安いものでも7万円とかなり高額。7万円はムリだ……。でも、もしかしたら会場周辺をウロウロしてみるだけでも楽しいかもしれない。よし、行ってみよう!

早速航空券を予約し、エアアラビアという中東エリアのLCCでひとっ飛び。航空券代はたったの6千円! LCCが安いのは当たり前だけど、安過ぎて逆に不安だ。

離発着時には乗客の誰かがスマホでコーランを流しているのか分からないが、かなりの大音量でコーランが聴こえ、何人かはそれに合わせてお祈りをしているのが印象的だった。日本の公共交通機関で大音量の音楽をかけることはまずないけれど、コーランだし、誰もが違和感なく聞いていたのでそんなもんなのかな……と思っているうちに無事着陸。

飛行機を降りると、入国審査ゾーンで驚く表示が飛び込んできた。【フォーミュラーワン専用レーン】なんと、F1目的で訪れる海外セレブをお待たせしないようにと期間限定で特別に作られたF1専用入国審査場なのだ。

私はというと……F1会場周辺をウロつくことはできても、チケットを持っていないという完全なる場違い女。でも、イチかバチかこのF1専用入国審査を通過できるかどうか並んでみようじゃないの。ダメならダメで一般レーンに並び直せばいいわけだし。ラフな格好で足元はビーサン。セレブとはかけ離れた私の服装。きっと追い返されてしまうだろうな……。

ドキマギしながら私の番になると係員はF1チケットの確認をせずに審査してくれた。ラッキー! が、喜んだのも束の間……しばらくして、私のパスポートにあまりに多くの入国スタンプが押されていたのを不審に思ったのか通過できずに逆戻り。「あなたのパスポートは審査に時間がかかるから待っていてください」と言われてしまった。

バーレーン最大のモスクであるアハマド・アル・ファテフ・モスク。写真提供/歩りえこ

実際のところは出入国スタンプの数が理由ではなかった。バーレーンはイランと仲が悪い。つい最近イランに行ったばかりでイランの出入国スタンプがあったのだ。中東エリアの事情はあまりに複雑だ。

以前の記事でお伝えしたが、イスラエルスタンプがあればイランに入国できるか分からないと言われ、460万円の違約金を払うかもしれないという意味不明な誓約書にサインさせられたし、今度はイランスタンプがあることでバーレーン入国できるか雲行きが怪しくなってきた。

中東諸国の旅は色んな意味でハードルが高い。もう、仲違いしないでみんな仲良くしようよ!と思ってしまうが、そんな簡単に仲良くできたら戦争なんて起こらないんだろうな。

10分後、係員に呼ばれ色々質問を受けることになった。つたない英語でこう伝えてみる。「一度でいいからF1をこの目で見てみたくてはるばる日本からやって来ました。F1観戦デビューをこのバーレーンで飾りたいです。見たらすぐ帰ります」チケットも持っていないのに自信満々によく言うわ……。

すると係員は突然嬉しそうな顔になり、F1専用入国審査場を通してくれた。なんでもイチかバチか言ってみるものだ。

アハマド・アル・ファテフ・モスク内部では女性は髪の毛を隠さなければならない。写真提供/歩りえこ