「距離感覚」を縮めたテレビやラジオ

テレビやラジオという電子メディアの出現は、人と人の距離感覚を縮めたと言われる。物理的にははるか遠くにいるのにも関わらず、テレビ番組で喋ってるタレントは直ぐそばにいるように感じる。この擬似的な近さの関係をパラソーシャルインタラクションといい、先ほどのホールの用語で言えば、本当は公衆距離ぐらい遠いはずのタレントがすぐ近くに感じるようになってしまった。とはいえ物理的に手で触れられるわけではないので、個体距離よりは社会距離ぐらいの近さだろう。

ただしここで押さえておかなければならないのは、テレビ・ラジオは片方なので、視聴者からはタレントは社会距離に感じるけれど、タレントからは視聴者の声は聞こえず、壇上から群衆を見てる公衆距離にしか感じなかった。しかしこれが双方向のソーシャルメディアによってさらに変化した。タレントの側からも視聴者が社会距離ぐらいに近くなってしまったのである。

先ほども書いたように、社会距離は物理的な支配は受けにくいけれど、心理的にはかなり近い。心理的な暴力と抑圧が発生できる近さなのだ。

画面の向こうで社会距離にあったはずの対象が、ネットを通じて近く心理的暴力が届く位置にきてしまった Photo by iStock

しかしソーシャルメディアが普及し始めてから、まだわずか10年余である。人々の電子的な距離感はいまだテレビやラジオのそれのままで、ネット上の相手に罵声を浴びせても、それが公衆距離ではなく社会距離の感覚で相手に受け止められているということが、皮膚感覚としてあまり受け入れられていないのだろう。