多発する取り押さえによる死亡事件

フランスでも、警察官によって拘束の際に黒人男性がうつ伏せの状態で各部位に体重をかけられ、窒息状態に陥り亡くなる事件が過去に何件も起きてきた。黒人同様、アラブ系フランス人への差別暴力行為も多く、今年1月にもこの手法で拘束された男性が咽頭骨折によって窒息死している。

しかし、国家権力である警察官の暴力は、正当な裁きが下されないことが多い。それゆえ、同様の事件で欧州人権裁判所(CEDH:個人や人権団体による対国家の提訴も扱う)が介入する事態となり、フランス国家が有罪となったこともある。容疑者確保の際にうつ伏せにする手法はフランス国内外の人権団体が抗議の声を何度も上げ続けているが、未だに改善されていないのだ。

アダマさん遺族は弁護士と共に証拠を揃え、死因を「うつ伏せ状態で250kgもの体重をかけられたことによる窒息死である」と訴え続けているが、未だに3人の警察官は裁かれていない。

デモ隊よりも、仏警察による暴力が壮絶

警察官が「市民に暴力」と聞いても、負傷者が続出するような激しいデモを目にしない日本ではあまり想像がつきにくい。しかし、2018年11月から毎週土曜日に行なわれた『黄色いベスト運動(*)のデモによって、その実態はますます明るみに出ることになる。

デモが盛んに行なわれていた当時、テレビのニュースではデモ参加者が「暴徒化している」と伝え、デモ隊とは無関係のほんのひと握りの「ブラック・ブロック(暴徒)」による酷い暴力行為を繰り返し映し、世論を煽っていた。しかし、実態は相当異なる。全国のデモ隊がその日に起きた情報をシェアし合うSNSページでは、デモ行進をする人たちによって撮影された、警察官の暴力行為を露わにする動画であふれていたのだ。

そこには、パニックに陥ったのか、冷静さを失った警察官が、黄色いベストを着てただ歩いているだけの人の頭を警棒で「もぐらたたき」のように殴りつけたり、階段を降りるデモ隊の列に突進して盾で押しのけ参加者を突き落としながら道を空けさせたりと、権力と防護装備を盾に傲慢かつ乱暴にふるまう姿を露見させていた。仏ニューステレビのサイト「CNEWS.fr」では、1年間で当デモを通じた警察官からの暴力による負傷者は2495名、失明者は24名(ゴム弾)、腕を失った人は5名(手榴弾)いたと発表。実際の数字はこれを相当上回るに違いない。ちなみに当デモの主な参加者は大部分が白人だった。

たしかに暴動を起こすデモ隊もいた。しかし今回のBLMプロテスト同様、静かな「抗議」が多くを占めていた。写真は2018年11月17日土曜日のもの Photo by Getty Images

さらに、警察官によるLBD(ゴム弾)を受け、丸腰の市民が失明したり脳に損傷を負ったりした事案が、告訴されているだけでも260件にのぼる。デモ期間の1年を通じ、危険なこの武器は武装装備もしていない市民に対して約2万発も向けられた。当然LBDの使用を禁止する議論が出るが、「正当な目的のための使用」として政府はこれを容認し続けた。つまり、国家権力は警察官による市民への暴力行為を黙認し続けたのだ。

デモ隊相手となると、相手が丸腰であるにも関わらず、仏警察は容赦なく暴力的になる傾向があるが、黒人相手となるとデモでもないのに更なる権力行使や暴言に出る人権連盟(LDH)によれば、仏警察による拘束が原因で命を落とすアフリカ系、アラブ系仏人は年間約15人にのぼり、過去40年間で500人以上が犠牲になっている。 

『黄色いベスト運動(=ジレ・ジョーヌ)』:マクロン政権の車のガソリン燃料高騰に反発した労働者階級の抗議運動に端を発し、全国的で継続的なデモに発展。以後貧困層の不満が富裕層に特権を与える政府に向けられ、毎週土曜日に大規模なデモ活動が展開された。