アメリカ・ミネアポリスで起きた警察官による黒人男性殺害事件は、全米のみならず、世界中で、そしてライター・下野真緒さんが暮らすフランスでも抗議運動として広がっている。フランスでもひどい黒人やマイノリティな方々への差別が続いている現状と、下野さん自身の受けた差別とは。

過去40年間に500人以上の
アフリカ系仏人が警察に命を奪われた

アメリカのジョージ・フロイドさんに対する警察官の暴力「殺人」に端を発した「人種差別と警官による暴力への大規模デモ」は、遠く離れたヨーロッパ大陸にまで波及した。その願いはただひとつ。「黒人を国家権力による暴力の対象にするのは終わりにして」である。

6月2日はフランスのロックダウン解除の第2フェーズとして、カフェやスポーツジムがその扉を2ヵ月半ぶりに解放する、一部の人たちが待ちこがれていた日でもあった。しかし未だウィルスへの恐怖に張りつめた街中で、2万人以上ものフランス人がパリ司法宮(パレ・ド・ジュスティス)前に集まり、マスク姿でデモを展開した。

こちらは6月6日土曜日の写真。マスク姿の市民が押し寄せた Photo by Getty Images

何故こんな時に、フランスでもデモが起きたのか。それは、2016年パリ郊外で逮捕直後に亡くなったアダマ・トラレオさん(当時24歳)の事件とジョージ・フロイドさんの事件との類似性に人々が共鳴したことによる。フランスでは過去40年間に、500人以上ものアフリカ系仏人が警察官の暴力によって命を落としている。国家権力を盾にした暴力の横行や人種差別には、筆舌に尽くしがたいものがある。

フランスで起きた
「もうひとつのジョージ・フロイド事件」

アダマ・トラオレさんの事件は4年経った今も警察官の暴力の存在を否定する証拠が提出されるなど、被害者遺族をはじめ正当な裁きを求める人々の怒りをかっている。弟の死後、反人種差別の活動家となった姉のアッサ・トラオレさんは、人種的理由を背景とする警察官からの暴力の連鎖を断ち切ろうと、今回再び公の場に現れた。アメリカで起きたジョージ・フロイドさんへの警察による行き過ぎた暴力行為は、身内を失い未だに真実を求め続けるアッサさんを突き動かし、数万人規模のデモへと発展したのだ。

アダマさんの事件の概要はこうだ。2016年7月、アダマさんはパリ郊外でパトロール中の警察官に身分証明書の提示を求められた。しかし証明書を携行しておらず、状況が不利になることを恐れて逃げ出した。この時点で悪いことをしていないのなら「逃げさえしなければ」と思われるが、身分証明書がないだけで「面倒なことになる」と思わせる、警察官の黒人への日頃の態度が想像できはしないだろうか。恐らく「黒人=悪いことをする」という無意識の偏見に満ちたパトロール体勢があるのは想像に難くない。

その逃亡劇の末、床にうつ伏せの状態で3人の警察官に体重をかけて押さえ付けられたアダマさんは、「息ができない」と訴えた。これは死亡直後に警察官本人が証言している。その後、パトカーで連行中(約3分間の乗車)にアダマさんは気を失い失禁してしまうが、警察官は息をしていることを確認した上で、手錠をかけたまま回復体位の姿勢で横たわらせたとした。しかし、連絡を受けて到着した救助隊は、「回復体位の姿勢ではなく、うつ伏せで手錠をかけたまま床に寝かされていた」と証言している。その後集中治療室に運ばれたが、数時間後には帰らぬ人となった。