素朴で愛らしい表情をたたえて、キュッキュッと首を鳴らす、鳴子こけし。江戸時代から続くこけし作りを実直に守る、宮城県最北部の山間にある鳴子温泉郷を木工作家の盛永省治さんが訪ねました。

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こけしに命を吹き込む描彩。
心を込めて筆を運ぶ

巨大なこけし看板が目を引く〈桜井こけし店〉。店内には伝統こけし以外に、海外の展示会で人気を得た創作こけしや、四代目の昭二さんが考案したこけしの技術で作った木地のお雛様「ひいな」も。/桜井こけし店 宮城県大崎市鳴子温泉字湯元26 ☎0229-87-3575

鳴子温泉にはその名も“こけし通り”と呼ばれる商店街がある。こけし店が軒を連ねる通りで、今回は大きなこけし看板が目印の〈桜井こけし店〉で絵付けの体験をさせてもらうことにした。

店内には先代たちが制作したこけしのほかに、昭寛さんが先代の技術を踏襲して新たに制作したものも。色が褪せたこけしからは月日の流れを感じる。今は白い木地のこけしが多いが、右端のこけしのように大正中期から戦前は胴の黄色が特徴の黄銅の鳴子こけしが主流だった。

〈松田工房〉では機械を使ってろくろ線を描く体験をしたが今回はすべてフリーハンド。お店の人に教えてもらったところ、こけしの絵付けは専門家ではなく、伝統こけし工人が行う。しかも原木調達から乾燥作業、木地挽き、描彩、磨き上げまですべて行い、使う刃物まで自分で作るのが伝統こけし工人の仕事なのだという。

材料調達から成形、仕上げまで一人で行うのは盛永さんも同じだが、「かんなやとくさなど道具まで手作りとは。すごいです」と驚いている。

工房で作業している櫻井昭寛さんを眺める盛永さん。昭寛さんは全国こけし祭りコンクールで最高賞を最年少で受賞し、史上最多の3度受賞もしている。鳴子を代表する伝統こけし工人の一人だ。

〈桜井こけし店〉は鳴子こけしの創始者といわれる大沼又五郎から受け継がれ、現在は五代目となる櫻井昭寛さんが店を守っている。絵付け体験は昭寛さんがお客さんからのリクエストで、10年ほど前からスタートしたという。買うだけではなく、自分で作る楽しさが味わえるので、観光客に人気のサービスになった。

こけし通りに面した席で絵付け体験。料金は一人1,500円(要問い合わせ)。

テーブルの上には、無地のこけしと鳴子こけしの伝統色である赤、緑、黒の染料、筆が数本用意されている。付けの手本を見ながら、まずは紙の上で筆を走らせて練習。絵の具をたっぷりつけすぎるとにじむので少量を取り、絵の具を落としながら描くのがコツなのだそう。練習が終わったらいざ本番へ。

江戸末期より続く〈桜井こけし店〉ではこけしの絵付けを体験できる。胴体部分に菊の模様をあしらうのが鳴子こけしの特徴。お手本を見ながら、葉を描く盛永さん。全神経を筆先に集中させる。

ドキドキしながら木地に筆を走らせる。まずは、眉、目、鼻の順に描く。顔の左右に髪の毛を垂らして、前髪は頭の上で結うように。そこに赤い筆を使って、水引手と呼ばれる模様を入れる。これは鳴子こけしの特徴の一つで、京都の御所人形がルーツ。最後は胴に筆先をスーッと伸ばしながら菊の花を描く。

自身で絵付けをしたこけしと一緒に。「似てますか?」

真剣な表情で「紙に描くより何倍も難しいです」と悪戦苦闘していた盛永さんだったが、お店の人からは「バランスがいい!」と褒められた。しかも、こけしの顔は描いた人と似るそうで、「笑った時の顔が似てますね」と言われて、ちょっと照れくさそうだ。

店内を見学していると、パステルカラーや蛍光色のモダンなこけしを発見。これは昭寛さんと六代目の尚道さんが共同開発したもの。伝統のこけし職人は親から子、子から孫へと世襲するのが基本だが、先代から伝統を受け継ぐ中で“個”という独自性も求められる。脈々と生き続ける愛らしいこけしには、時代や生活環境に応じた美的感覚も要されるのだ。